「ラルク。どうして私には赤ちゃんができないの?」
リフィアの無邪気な、あまりにも無邪気すぎる質問に、ラルクは一瞬言葉を失った。
「私、結婚したら赤ちゃんができるものだと思っていたの。でもラルクと結婚したのに、私のお腹の中には赤ちゃんはいないわ。どうして?」
問いかけるリフィアの眼差しは真剣そのものである。ベネトナーシュの歌学省の中で育ち、外の世界のことをほとんど知らなかったリフィアにとって、それは当然の疑問なのだろうと頭では理解していた。
しかしながら、疑問の内容に問題がありすぎる。ラルクが何と答えるべきか迷っていると、リフィアが首を傾げてラルクの顔を覗き込んできた。
「ラルク、どうしたの?」
「うわっ! いきなり覗き込むなよ、驚くだろ!」
「ご、ごめんなさい」
ラルクが怒ったと思ったのか、申し訳なさそうに目を伏せるリフィアに罪悪感が湧く。ラルクは誤解を解こうと、慌てて弁解した。
「い、いや、怒ってるんじゃない。ただ……それはな……」
「それは?」
覗き込んでくる純粋無垢な瞳に耐えられず、ラルクはうっ、と後ずさりする。本当のことを教えてしまってもいいものか。しかし、生まれ出た赤ん坊が持つ純潔さそのものであるかのような彼女にそれを教えるのは、いささか抵抗があった。
彼女を生涯の伴侶としてから、数日経つ。部屋の中央に置かれたダブルベッドにて、今まで何度も彼女と共に眠りについたが、未だに彼女に触れたことはない。性欲がないではなかったが、幼子のように純粋な彼女の寝顔を見ていると、それ以上何もできなくなってしまうのだった。外では威勢の良いことばかり言っているが、こういうところで踏み込めない辺り、自分もどこか臆病な面があるのかもしれないと、ラルクは内心苦笑を洩らした。
それでも、彼女が笑っていてくれるならそれでいいと思った。自分が彼女の領域に踏み込みすぎれば、彼女の笑顔が失われることになるかもしれない。その方が、何倍も恐ろしいことだった。
だからこそ、無邪気ながらも鋭く突いてくる彼女の疑問に、ラルクは戸惑いよりも恐れを覚えた。
「リフィア」
彼女の白い手を握ると、リフィアが疑問を宿した瞳でこちらを見つめてくる。
「お前は、その……俺のことが、好きか」
リフィアは何の躊躇いもなく、素直に頷いた。
「ええ、好きよ。どうして?」
「そうか、なら……ちょっと、ベッドのところまで来てくれ」
ラルクは彼女の手を引いて、ダブルベッドのところまで誘導した。リフィアは抵抗する素振りも見せず、大人しくついてきた。
確かに、真実を教えるのに抵抗はある。だが、逆に良い機会なのかもしれないとラルクは思った。彼女を伴侶にした以上、このままいつまでも深い関係にならず終わることはないだろう。ラルク自身も限界というものがある。いずれは教えなければならないことだ。まして彼女が子供を望むのなら、余計に。
彼女をベッドに座らせ、ラルクは彼女の瞳を見つめる。鮮やかな黄金色の瞳に宿るは、先程と変わらぬ疑問。流れるような紫の髪を梳くように指を絡ませ、ラルクは口を開いた。
「リフィアは、本当に……子供が欲しいんだな?」
「ええ、そうよ。でも、できないから――」
「どうしたら出来るか、今から教えてやろうか」
真剣な口調で尋ねる。リフィアはまたしても躊躇いなく、こくりと頷いた。
「ラルクは知っているのね? だったら、教えて」
「分かった」
ラルクは覚悟を決めた。彼女がここまで望むならば、応えてやらぬわけにはいかない。
ベッドに腰掛けている彼女へゆっくりと近づき、自身もベッドへ膝をかける。自然な動作で彼女を押し倒すと、まずは一つ、口づけを落とした。彼女と口づけするのは初めてではない。その柔らかな唇の感触を呑み込むようにしながら、何度も何度も口づけを落とす。
少しばかり舌を伸ばして、彼女の口の中へと割って入った。彼女の舌を見つけてくっつけようとすると、驚いたように引っ込められる。一度唇を離しリフィアを見ると、リフィアはなおもぼんやりとした瞳でラルクを見つめていた。
「ラルク……?」
「嫌か」
ラルクの短い問いに、首を横に振るリフィア。
「いいえ。嬉しいわ」
「……そうか」
再び、口づけ。彼女の口腔を舐め回すようにしながら、濃厚な跡を残す。顔を離した時、ラルクの息は上がっていた。
彼女の衣装の留め具をゆっくりとした動作で外すと、途端に彼女の胸がはだける。リフィアは恥ずかしがる様子も見せず、はだけた胸へ視線を落とした。彼女の白地の衣装は実に簡素な造りで、二つほど留め具を外してしまえば、全てが露わになるのである。下着の脱がせ方が分からず、ラルクが四苦八苦していると、リフィアは自分で少し身体を起こした。
「これを脱げばいいの?」
「あ、ああ」
頬が熱くなるのを感じながら、ラルクは頷く。リフィアは躊躇いもなく背に手をかけると、するりと胸の下着を剥ぎ取ってしまった。
露わになった胸の形は実に美しかった。レスリーほどの大きさではないものの、形の良い桃色の双丘。ラルクは初めてまともに見るリフィアの胸に、思わず見とれた。自身の下半身が敏感に反応するのを感じて、若干の罪悪感を抱きながら。
「どうしたの、ラルク?」
胸も隠さずに、リフィアが疑問を投げかけてくる。
「何でもない。ただ、その……」
「その?」
「……綺麗だなと思っただけだ」
ラルクは呟くような小さな声でそう言った後、彼女の胸へと顔を近づけた。色濃くなった部分の突起を舌でおそるおそる舐め上げる。すると、口づけをしても服を脱がせても何も言わなかったリフィアから反応があった。小さく声を上げて、微かに身体を震わせたのだ。
ラルクが驚いて顔を上げる。すると彼女の顔が、ほのかに赤らんでいるのが見えた。彼女の表情を上目遣いに窺いながら、再び舌を動かす。
「ぁ……」
ぞくりと身体を震わせた。彼女が反応してくれている。興奮を覚えながら、ラルクは突起を甘噛みした。
「や……ラルク……」
彼女がこんなに切なげな声で自分を呼ぶのは初めてだった。ラルクは視線を上げて、軽く微笑を洩らす。
「ここがいいのか、リフィア?」
「変な……感じが、するの……」
リフィアの上気した切なげな表情が、ラルクの興奮をますます煽った。
「ひゃ……!」
ラルクはますます舌で突起を責め立てた。その度にリフィアは身を微かによじり、全身を走る快感に耐えているようだった。おそらくは彼女にとって未知の快感であろう。ラルクは一度顔を離し、リフィアの顔を覗き込んだ。
「リフィア、嫌なら言ってくれ」
「い……いいえ……」
リフィアは長い睫を不安げに揺らしながらも、首を横に振った。
「嫌では、ないわ……」
自分を一切拒もうとしないリフィアに、喉元にまで愛しさが込み上げる。その愛しさを口移しするかのように、ラルクは彼女を右腕で抱き寄せると、桃色に染まった唇に自分のそれを押し当てた。口と口の間から、静かに唾液が滴る。
次、ラルクは彼女の下着の中へと指を侵入させた。茂みをかき分け、花びらと思われる場所に触れた途端、彼女の身体は明らかに反応を見せた。続いて、奥から粘り気を伴った液体がしみ出す。彼女の形を確認するように花弁の縁をなぞると、リフィアがベッドの上に放り出した脚を震わせた。
「ラルク……」
その部分を隠すかのように、リフィアが脚を曲げようとする。だがラルクはそれを押さえつけると、一気に下着を剥ぎ取ってしまった。押しつけた指の腹で、敏感な部分を何度も何度も撫でてやる。その度にリフィアは切ない声を上げ、ラルクの背をぎゅっと握った。それが心地よくてならなかった。自分の下半身がズボンの中で、普段以上に肥大しているのを感じた。
「ゃ、ラルク、ぁあっ……だめ……」
「嫌か?」
「嫌じゃないの、でも……なんだか、変なの……」
「変じゃない。お前は……綺麗だ」
いつもは口にしないような恥ずかしい言葉が、自然に口からついて出る。サージュやセシルに聞かれでもしたら大変だな、などということをぼんやりと考えながら、しかし本心からの言葉であったために撤回はしなかった。彼女に口づけながら、花びらの中へと指を侵入させる。だが、瞬時にきつい締め付けに遭う。ラルクは彼女の喘ぐ声を聞きながら、耳許にささやきかけるように言った。
「リフィア、もうちょっと力抜け」
「ん……」
リフィアの力が一度緩んだ。かに見えたが、ラルクが再び中へ指を挿れようとすると、再び強い力で締め付けられてしまった。
ラルクは小さく溜息をついて、根気よく愛撫を続けることにした。自分もこういったことは初めてだから偉そうには言えないが、彼女もおそらく初めてなのだろう。常にゆったりした空気の中で生きている彼女といえども、緊張してしまうのも無理はない。自分が全く同じ状況に置かれているように。
それに、二人を急かすものなど、ここには何もないのだ。ラルクは今までさんざん待ち続けたのだから、ここで少々待ったとしても、決して苦痛とは思わない。
指の腹で溢れる液を掬い上げ、花びらへと押しつける。彼女が切なげな声を上げる度、その声を吸い上げるようにして、口づけを落とす。彼女の温度が直に感じられ、ラルクは自然と安心感を覚える。
彼女はいつも温かくて、不思議な包容力を持っていた。戦闘に慣れない彼女を庇うのはいつも自分の役目だったが、彼女の隣にいるだけで安堵できることに気付いた時、不思議な感覚を覚えた。まるで母の胸の中にいる時のような安心感。男としてのプライドが邪魔をしながらも、その安心感に触れていたくて、ずっと彼女の傍にいたように思う。
やがて、彼女の緊張が緩んできたらしい。あれほど入り口で拒み続けられていたのに、ある瞬間指がするりと中へ入った。中で愛撫を重ねると、リフィアはいっそう身体をよじらせた。
「ひぁ……変、変なの、ラルク……」
「大丈夫だ」
ぴちゃぴちゃという水音が聞こえる。これならばもう大丈夫か、と勝手に判断を下し、ラルクはズボンのベルトを片手で器用に外した。窮屈なほど存在を誇示していたそれを解放し、ラルクは小さく溜息を吐く。それに気付いたのか、リフィアが切なげに細めていた視線を、音のした方に落とした。
「どう、したの?」
「いや……リフィア、あまり見ない方がいい」
自身の男性器は既に昂ぶりを示している。もしかしたら彼女に恐れを抱かせるかもしれない――そう思って腕で隠そうとしたのだが、リフィアは首を振って、ラルクの腕を優しく押しのけた。
「ラルクのはどんなふうになっているか、見たいの」
ラルクは気恥ずかしい思いがせり上がってくるのを感じたが、激しく拒みはしなかった。好きにすればいいという意味で頷くと、リフィアはラルクの己に視線を落とし、まあ、と小さな声を上げた。
「こんなふうに、なっているの? 私とは違うわ」
「それは、俺が男で、お前が女だからだ」
「そうなの? 初めて見たわ」
白く細い指で、竿に触れる。その優しい感触に、ラルクは顔を歪めた。
「っ……」
リフィアは慌てたように手を引っ込めた。
「ごめんなさい。痛かったかしら」
「いや、違うんだ……そうじゃない」
ラルクは首を振った後、再びリフィアを白いシーツの上へと押し倒す。
「リフィア……これから、お前にすごく痛い思いをさせるかもしれない。それでも、いいか?」
「どうして?」
「それは……子供を作るために、必要だからだ」
ラルクがそう言うと、リフィアは頷いた。
「ええ。私は大丈夫よ。ラルクと一緒なら……」
「そうか……」
胸を満たす愛しさ。彼女の顔にかかった紫の髪をそっとどけてやると、彼女の両脇に手をつき、ラルクはゆっくりと彼女の花弁へ自身を咥えさせた。愛撫は十分にしたはずだが、それでもやはり締め付ける感覚はまだ残っている。
先だけ挿れた状態で彼女の表情を窺うと、不思議そうな表情をしていた。
「ラルク、どうなっているの? 変な感じがするの……」
「さっきのを、お前の中に挿れているんだ」
まあ、と呟くリフィアの穏やかな顔。
ラルクはその表情を壊すのは本意ではなかったが、怖がっていては始まらない。ラルクは一気に全てを突き破るようにして、彼女の身体を貫いた。その瞬間、悲鳴が上がる。
「あぁぁっ……!」
彼女の顔が一気に歪んだ。襞に締め付けられる感覚が痛い。だが一度火が付いてしまったラルクは、もう止まらなかった。彼女の中へ、杭を打ち込むようにして激しく腰を突き立てる。
「やぁっ、あぁん、ラルク……!」
「リフィア……!」
リフィアの手が伸びてきて、ラルクの首を掴もうとする。彼女は苦しそうな顔をしていたが、その表情がラルクの興奮をますます煽った。ラルクは身体を貫くような快感に急き立てられ、腰を動かす。リフィアは睫を震わせて、ラルクを切なげに見つめた。
「ラルク、ラルク……!」
「リフィア……好きだ、お前が……好きだ」
普段は決して口にしない言葉が出てくるほど、ラルクの興奮は最高潮に達していた。荒い息が混ざり合う。絶頂を迎えそうになって、ラルクは言葉をこぼす。
「リフィア、いいか、いくぞ……!」
「ラルク――!」
瞬間、頭が真っ白になった。直後、自身がのたうち回る感覚。肩を上下させながら、ラルクはリフィアの表情を見下ろしていた。リフィアも頬を上気させて、小さく息を吐き出していた。
やがてラルクの視線に気付いたのか、ゆっくりと微笑みを見せる。ラルクは愛しさにたまらなくなり、彼女の微笑んだ唇に濃厚な口づけを落としていた。
「ラルク、これで赤ちゃん、できるのかしら」
期待を込めた瞳で見つめてくるリフィアに、ラルクは微笑みを浮かべてやる。
「ああ。多分、な」
横たわっている彼女の髪を梳いてやると、リフィアは心底嬉しそうに笑った。
「痛く、なかったか?」
ラルクが尋ねると、リフィアは少し躊躇うように俯いた後、言葉を紡いだ。
「痛かったわ。でも……ラルクと一緒だったから、嫌ではなかったの」
それにね、とリフィアは付け加える。
「ラルクが、とっても気持ちよさそうな顔をしていたの。私、それを見て嬉しくなったわ」
「な……」
ラルクは途端に頬を赤らめる。自分の無防備な時の顔を見られるのは、相手がリフィアならば嫌ではないが、それでも気恥ずかしいという思いは消えない。
「私、もっと見たいわ。ラルクの気持ちよさそうな顔。だから、またしましょう」
「う……あ、ああ……そうだな……」
なんとも言えない気分になり、ラルクは仰向けになって天井を見上げる。決して嫌ではない。嫌ではないが、どこか複雑な気分だ。ラルクは溜息をついて、気持ちを落ち着かせようとする。
少し落ち着いたら、それでもいいか、と思えるようになった。彼女が喜んでくれるのならば、それが一番だ。何より、自分も彼女のそのような表情を見ることができるのは嬉しい。
ラルクは腕を伸ばし、リフィアを抱き寄せた。彼女の温もりを感じながら、互いの間にある愛を確かめるようにして、唇にそっと口づけた。