いっしょに、どきどき。

「ラルク……」
 艶っぽい声で名前を呼ばれると、どうしようもなくなってしまう。
 お風呂から上がったばかりの彼女の身体を抱き寄せ、ラルクは静かに唇を絡めた。


 イーサの子としての最後の役目を終え、五百年の眠りから覚めたラルクを待っていたのは、イマジナル・ディーバとして常に隣にいた少女――リフィアだった。もう、二度と離さない。リフィアにそう約束して、ラルクは暗い聖地ノワーレを出た。
 共和国元老院の援助により、ラルクはリフィアの故郷ベネトナーシュに居を構えることとなった。もう運命に翻弄されることもなく、誰からも邪魔されることなく、二人はようやく静かな生活を手に入れたのだ。穏やかで、幸せな時間。五百年という時が生んだ変化への戸惑いと恐れは、瞬く間に消えていった。
 五百年経った後も、リフィアはラルクが知る姿と変わらぬまま、そのままの彼女だった。聞けば、ラルクが眠っていた聖地ノワーレのイーサの間に揺り籠を設置し、ラルクと共に五百年の眠りについていたのだという。最後に残した未来で待っているからという言葉を、彼女は忠実に守ってくれたのだ。彼女への感謝と共に、愛しさが湧き上がるのをこらえることができなかった。
 同じ家に住み、結婚した夫婦同然の暮らしをしながらも、ラルクは未だ一度もリフィアに触れたことがなかった。口づけくらいなら交わしたことがある、だが、その先の行為にまでは至っていない。彼女が怖がるのではないか、嫌がるのではないか、そんな負の想像ばかりが先行して、ラルクはなかなかその先に踏み込めずにいるのだった。いくら欲があるとは言っても、嫌がる彼女を無理矢理押し倒し、乱暴に扱うなどということはしたくなかった。
 だがこの日、とうとうラルクは我慢し切れなくなってしまったのだった。
 風呂上がりのリフィアは、ラルクが毎度目を瞠ってしまうほどの艶めかしさに満ちていた。未だ生まれ出でたばかりの幼子のような雰囲気を残しているリフィアだが、風呂上がりの瞬間だけは別だった。薄い寝間着から見えるしなやかな身体の線、湯上がりで火照った顔、水の滴る髪、そして、全身から漂う花の香り。思わずラルクの身体まで熱くなり、目を逸らしつつも、その姿をもう少し見ていたいという矛盾した思いにとらわれる。
 いつもならその後、すぐに自分が風呂に入ることで事なきを得ていたが、今日は違った。普段と同じ反応をするラルクの顔を、リフィアがじっと覗き込んできたのだ。
「ラルク、どうしたの? 具合、悪いの?」
 水を含んで揺れる彼女の睫毛。自分をじっと見つめる、大きな黄金色の瞳。それらが全て至近距離にあるのだ。ラルクは否定の言葉を口にしようとしながら、しかし何も出てこないことに気付いた。息が出来ないほどに近い。うっ、と小さく呻くと、リフィアはますます不安そうな顔をした。
「ラルク……?」
 ラルクはたまらず、リフィアの背に腕を伸ばしていた。湯気の立った、ほんわかと温かい彼女の背。ラルクはそのまま身体を抱き寄せると、彼女の唇へと顔を近づける。
「きゃ……」
 リフィアの口から小さな声が洩れる。ラルクはついばむようなキスの後、もう一度深く口づけをした。舌を伸ばし、彼女の唇を舐める。二度目のキスが終わった後、リフィアは風呂上がりで赤くなっていた頬をますます赤らめて、ラルクを見つめた。
「ラルク……」
「お前が……悪いんだぜ」
 気恥ずかしくなったラルクが目を逸らしつつ、呟くように言う。
「お前がその……あんまり、か、可愛いから」
 滅多に口にしないような言葉を言ったせいか、舌が上手く回らない。それでも、リフィアには随分効いたようだ。あの、と消え入りそうな声で言うと、顔を真っ赤にして俯いたまま黙ってしまった。
「リフィア……」
 露の含んだ髪を、人差し指の背でそっと持ち上げる。リフィアは少し視線を上げて、はにかんだ表情でラルクを見つめた。
「ラルク、あの、私……」
「何だ?」
「どきどき……するの」
 心の内を正直に告白する彼女を、心底愛おしいと思った。
「俺も、一緒だ」
 囁くように言うと、ラルクはもう一度唇を絡めた。
 潤った唇、柔らかな耳朶、しなやかな首筋、そして、鎖骨。彼女の身体の全てを愛おしむように口づけした後、ラルクは自然な動作で寝間着を脱がせた。リフィアの肩から服が外れて、片方の胸が露わになる。ちゅ、と音を立てて吸い付くと、彼女の身体がびくりと震えた。
「ぁ……ラルク……」
 桃色の突起は思った以上に強く反応し、あっという間に硬くなる。ぞくぞくと身体を震わせるリフィアを、ラルクは上目遣いに見つめた。
「感じてんのか」
「だ、だって……」
 ラルクの膝の上に載せている足が、僅かに動く。それが足をすり合わせる動作だと分かった瞬間、ラルクは片方の手を彼女の足の間に滑り込ませていた。
「やっ……!」
 驚いたように足を閉じようとするリフィア。だが、ラルクの力の強さには敵わなかった。下着の上から彼女の秘めた部分に触れて、その場所が湿っていることを確認する。
「お前も、俺と同じこと、思ってたのか?」
「お、同じ、こと……?」
 下着の上からでも分かる花弁の形をした突起を、人差し指で撫で上げる。
「あっ……!」
 リフィアの太股がますますきつくラルクの手を締め付け、彼女の口から艶っぽい声が洩れる。容赦なくその指を動かしながら、ラルクは囁くように言葉を続けた。
「お前に触れたい、って思ってたこと」
 下着の中に指を滑り込ませ、湿っている部分に直接触れると、リフィアはふるふると首を振った。
「ラルク……おねがい、やめて……こんな……あぁっ」
「嫌か?」
「私……変になっちゃうの……」
 ラルクは彼女の背に回した手に力を込め、もっときつく抱き寄せた。リフィアの喘ぐ声が、耳許で響く。
「変じゃない。もっと、お前の声、聞かせて欲しい」
 ラルクの言葉の後、リフィアが熱のこもった息を吐いた。彼女の細い指が、ラルクの肩へと委ねられる。それは彼女の承諾の印であると、ラルクは受け取った。


 リフィアを一度椅子の上に座らせた後、ラルクは彼女を横からしっかりと抱いて寝室へ向かった。リフィアが睫毛を震わせ、不安げにラルクの首へ腕を回してきた。その瞳の中で揺らぐ光を捉えつつ、ラルクは彼女をベッドの上に横たえる。
 上着を脱ぎ、閉じようとするリフィアの足をやんわりと開いて、愛撫を再開する。指だけではなくて、顔を近づけて息を吹きかけてやると、リフィアの身体は敏感に反応を見せた。舌を出して舐め上げると、中からどっと蜜が溢れ出た。
「ひゃっ……ラルク、そんなところ……っ!」
 音を立てて愛液をすすり上げると、リフィアが顔を真っ赤にしたまま、ふるふると首を振る。
「や……やめて、ラルク、いや……」
「俺には、嫌じゃないって顔してるように見えるんだが」
「ラ、ラルクの、いじわる……」
 顔を横に向けて、リフィアは拗ねたような表情を作る。ラルクは一度身体を起こし、頬にかかった紫の髪を除けてやる。だがリフィアは、一向にこちらを見ようともしない。
 機嫌を取るように、ラルクは顔を近づけた。
「リフィア、悪い。機嫌、直してくれよ」
「……私、別に怒っていないわ」
「じゃあ、こっち向いてくれよ」
「いや」
 リフィアは頬を真っ赤に染め、呟くように言葉を洩らす。
「こんな恥ずかしい顔、ラルクに見られたくないもの……」
 ラルクが思わず小さく笑いを洩らすと、リフィアはうっすらと涙を浮かべて、ラルクの方を向いた。
「酷いわ、ラルク、どうして笑うの?」
「いや、だって、お前が……可愛いから」
 リフィアの目尻に浮かんだ涙を指で拭って、ラルクは微笑みを浮かべる。
「俺は、お前のそういう顔が見たいんだよ」
 リフィアは明らかな動揺を見せ、視線を逸らした。それすらも愛おしく感じながら、ラルクは再び秘部に指を押し当てる。花弁から蜜の溢れる場所をなぞると、リフィアはまた熱っぽい息を吐いた。
「はあっ……ラルク……」
 少しばかり位置をずらして撫でてやると、彼女の身体が明らかにびくんと震えた。
「だめ、ラルク、そこは――!」
「ここがいいんだな」
 小さく笑むと、指の腹でしつこく撫でつける。彼女の身体は素直に反応し、とろとろとした蜜が溢れ出してきた。その熱っぽい蜜を敏感な部分に塗りつけてやると、彼女は身体を捩らせて喘いだ。
「あぁっ、だめ、おねがい、ラルク……!」
 彼女の懇願を無視して続けると、リフィアは一層大きな声で喘ぎ、身体を仰け反らせた。
「あぁ、ラルクっ――!」
 痙攣の後、彼女の身体から力が抜けた。
 ラルクは自分の名を呼びながら果てた彼女を、ベッドの上で優しく抱き締めてやる。リフィアはラルクの胸にすがりながら、はあ、はあ、と小さく息を吐き続けた。
「ラルク、……私」
「変なんかじゃ、なかったぜ」
 えっ、と反射的に顔を上げたリフィアに、笑みを浮かべてやる。
「すごく可愛いって、思っちまった」
「ラルク……」
 一瞬不安げに揺れた瞳が、やがて喜びの光を宿す。リフィアははにかみつつも微笑み、ラルクを上目遣いに見た。
「良かった……私、こんな姿を見られて、ラルクに嫌われたらどうしようって思ったの」
「嫌うわけないだろ。俺が見たいって言ったのに」
 もっと顔をよく見ようと、リフィアの前に垂れた髪を後ろへ持って行く。するとリフィアが微笑んだまま、思いがけないことを言った。
「……ラルクは?」
「へっ?」
「ラルクは……私みたいに、なったりしないの?」
 大きく目を見開いた後、ラルクはリフィアからそっと視線を逸らす。
「それは……そんなことは」
「ないの?」
「いや、ないこともない、けど……」
 立場が逆転して、今度はラルクの頬が紅色に染まる。リフィアはラルクの視線を追いかけて、顔をじっと覗き込んできた。
「じゃあ、教えて。ラルクは、どうしたら気持ち良くなるの?」
「それは……でも、いいのか」
 あらゆる意味を込めての問い。だがリフィアは躊躇う様子も見せず、即頷いた。
「ええ。ラルクにも、気持ち良くなって欲しいの」
 上目遣いに見つめてくるリフィアに、ラルクは拒めなくなってしまった。やがて分かった、と諦めたように頷くと、熱のこもった息を吐きながら、リフィアを自身の性器へと導いた。


「これが、ラルクの……なのね」
 彼女は最初驚いていたようだったが、不思議と怖がる様子は見せなかった。互いに全裸となった状態で向かい合い、彼女に自身を凝視されていることを感じながら、ラルクは気恥ずかしさで目を逸らす。先程彼女が味わっていたのはこんな気持ちなのかなどと、ぼんやり考えながら。
「これを、どうすればいいの?」
「そうだな……ええと……」
 視線を逸らした状態で考えつつ、彼女に指示を出す。
「手で……擦ってくれないか」
「分かったわ」
 リフィアの白い手が、既に勃ち上がったラルクのそれを優しく包み込む。そうして、まずは下へ。続けて上へ動くと、想像していた以上の感触が身体中を走り抜け、ラルクは呻いた。
「……っ」
 顔を歪めるラルクを見て、リフィアが心配そうな顔をする。
「ラルク、痛いの? なら、もう少し弱く――」
「いや、いい。そのまま……してくれ」
 リフィアは素直に頷き、もう一度手を往復させた。電撃が走り抜けるような感覚。やわやわと触れるリフィアの指が、心地よく響く。
「……っ、はっ……」
 小刻みに息を洩らすラルクを見て、リフィアは微笑みを浮かべた。
「ラルク……気持ちいいのね。嬉しい」
「リ、フィア……」
 なおも動きを止めないリフィアの手を見ながら、ラルクの背が震える。このまま続けられたら、簡単に絶頂を迎えてしまいそうだ。彼女の手つきは慣れていないながらも、されているという興奮と相まって、ラルクのそれは手の中ではち切れんばかりに肥大していた。
 先端から濁った汁が溢れ、リフィアの手を濡らす。リフィアは不思議そうにそれを見つめた。
「これは? ラルク……」
「そ、それは」
 何と説明するべきか迷っていると、リフィアがやがて微笑んで納得した表情になった。
「ラルクが気持ちいいからなのね?」
「あ、ああ……」
 間違ってはいないので、否定せずにおく。するとリフィアが突然、先端に口づけた。
「リフィア!?」
 驚いて肩を震わすと、リフィアが上目遣いにこちらを見た。
「だって、ラルクもこうしてくれたでしょう?」
 そう言いながら、先端へ軽く口づける。何度も何度も繰り返され、ラルクの身体は敏感に反応した。やがて絶頂を迎えそうになって、ラルクはリフィアの肩を思い切り掴む。
「うっ……リフィア、だめだ、離れろ――!」
「えっ?」
「く、う……っ!」
 遠ざけようとしたのに、間に合わない。ラルクの先端から迸る白濁液は、リフィアの綺麗な肌を汚した。リフィアはただただ驚いたように、その出来事をぼんやりと見つめていた。顔に付着した白濁液を拭って、不思議そうに指の腹で擦る。
 ラルクはしばらく脱力していたが、目の前の彼女が自分の放ったもので汚れているのを見て、強い興奮を覚えてしまった。慌てて我に返り、傍にあったタオルを差し出す。
「リフィア、これで拭け。早く」
「え、ええ」
 リフィアはやや名残惜しそうにしながら、白濁液をタオルで拭った。ラルクは罪悪感を覚えつつ、なおも興奮する自分に気付いて溜息をつきたくなった。リフィアが自分を気持ち良くさせてくれたことは嬉しいが、背徳感が勝る。
「ごめんな、リフィア……」
 謝罪の言葉を口にすると、リフィアが不思議そうに首を傾げた。
「どうして? 私、ラルクが気持ち良くなってくれて、嬉しかったのに」
「けど、お前のこと、汚してしまったし……」
「私は気にしていないわ」
 彼女の微笑みが、天使のようにも女神のようにも思えた。と同時に、かつて神を否定した自分がそのような表現を使ってしまったことに、違和感を覚えて苦笑する。だが、今のラルクにとって、リフィアは間違いなく女神なのだった。自分だけの、癒しと喜びを与えてくれる女神――甘やかな感情を抱きながら、ラルクは彼女の唇に口づけを落とした。


 茂みをかき分けて再び彼女の花園へ踏み入ると、彼女のそこは既に濡れそぼっていた。先程の行為で、彼女も興奮してくれたのだろうか――そんなことを考えていると、リフィアはラルクの肩を掴みながら、切なげな視線を落とした。
「ラルク……私……」
「リフィア、今度は」
 言いながら、蜜の溢れる花弁の中へと指を侵入させる。
「お前のここに、入りたい」
「ラルクのが、ここに……?」
 睫毛を震わせて尋ねる彼女を、心底愛しいと感じながら頷く。
「私も……ラルクと一つになりたいの……」
 リフィアは少しだけ脚を開いて、ラルクのものを迎え入れる準備をした。指がその場所にするりと入ることを確認した後、ゆっくりと指で押し上げて、ラルクは自分の先端を宛がう。腰の動くまま彼女の中へと侵入すると、リフィアが顔を歪めた。
「っつ……はあっ……」
「痛いか、リフィア?」
 リフィアはふるふると首を振る。
「大丈夫……だから……」
 ラルクは頷いて、彼女の奥まで貫いた。途端に彼女の身体が仰け反る。
「あぁぁっ……!」
 締め付ける感覚。ラルクも顔を歪めながら、同時に心地よいと感じてもいた。試しに腰を動かし、彼女の襞へ擦りつけてやると、リフィアは艶っぽい声を洩らした。
「ラルク、はあっ、あぁ……」
「リフィア、分かるか? 俺のが、お前の中に入ってる……」
「ラルク、あなたの、感じるの……」
 切なげに瞳を揺らし、熱っぽい息を吐く。ラルクは興奮に任せ、蜜の溢るる場所へ自身を擦りつける。そのたびにリフィアの息遣いが、より一層強くなる。
「はあっ、あぁっ、ラルク、ラルク、だめ――!」
「リフィア、俺ももう――!」
 ラルクはリフィアを突き上げると同時に、最奥で精を放った。どくどくとのたうち回る自身の感覚をぼんやりと感じながら、艶めいた喘ぎ声を洩らす彼女を、ただただ愛しさ故に抱き締めていた。


「お前が、嫌がらなくて良かった」
 ベッドに横たわりながら、ラルクはリフィアを抱き寄せ髪を撫でる。
「今まで、不安でさ。お前が俺を怖がったら、どうしようって思って……なかなか、できなかったんだ」
 リフィアは頬を微かに染めた後、唇に笑みを浮かべた。
「本当は、少し怖かったわ。でも」
「でも?」
「私も本当はラルクとこうしたかったんだって、気付いてしまったの」
「リフィア……」
 頬を完全に赤らめ俯く彼女を、ラルクは渾身の力で抱き締めた。愛おしさが心から、喉元から込み上げ、どうしようもなくなった。
 至近距離で、彼女の息遣いを感じる。心臓が高鳴り、互いに見つめ合った後、まるで糸が絡み合ったように、目が離せなくなった。
「ラルク、今日、私ね」
 リフィアの息が、ラルクの剥き出しの胸にかかる。
「すごく、どきどきしたの。あなたに恋をしたって気付いた時と、同じくらい」
「ああ、俺もだ。お前に好きだって言われた時くらいにな」
 熱い息を額に吹きかけると、リフィアはくすぐったそうに目を閉じた。
「私、今、とっても幸せなの」
「ああ……俺も、幸せだ」
 同じ思いを共有していることを確認しつつ、どちらからともなく口づけを交わす。
 互いの唇を濡らした後、幸せな笑みを浮かべて、二人は眠りに落ちていった。
(2010.3.28)
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