Burlescaな恋人

「や、んっ……音也くん、だめ……」
「だって、君と会うの、久しぶりだから……俺、我慢できないよ」
 触れた唇から熱が広がって、全身に染み込んでいくのがわかる。
 あらかじめ予約しておいたレコーディングルームで、卒業オーディションの曲についての打ち合わせをしよう、なんて言っていたのに、一度火が付いてしまった音也はもう止まらない。音也に迫られて、椅子に身体を押しつけられた春歌の手が机の上を滑る。その時微かに触れた楽譜が、ぱさりと床に落ちる音がした。
 ブレザーを脱がされて、シャツのボタンを一つ一つ丁寧に外されていく。これが初めてではないはずなのに、胸がきゅんと羞恥に疼く。思わず俯いたら、音也は素早くそれに気付いて、笑って顔を上げさせた。
「だーめ。俺にもっと見せて。春歌の可愛い顔」
「だって……恥ずかしい、から……」
「恥ずかしがってる顔も最高に可愛いんだから、俺に見せなきゃだめなの」
 唇を塞がれて、春歌の胸がとくんと高鳴る。侵入してきた音也の舌が歯列をなぞり、遠慮がちに伸ばされた春歌の舌と絡まった。
「んっ……ふ、……春歌、かわいい……」
「っ、ぁ……音也くん……」
 音也に名を呼ばれて、可愛い、と言われるだけで、幸せな気持ちになってしまうのはどうしてだろう。最初は恥ずかしくて死にそうで、身体がすくんでしまいそうになるのに、それはいつの間にか音也と一緒にいる幸せにかき消されてしまう。この先のことを想像して、春歌は思わず足を擦り合わせた。
 ブラジャーを外されて、音也は指で先端をきゅっとつねる。
「ぁっ、や……」
「痛かった?」
「ちょっと、だけ……」
「じゃあ、これは?」
 先程よりも優しくつままれて、春歌の身体の芯がきゅっと熱くなる。何も言わずに吐息を洩らすと、音也は一人で納得したように笑った。
 その間にも、春歌の身体はこれから起こることへの準備を重ねている。じわじわと溢れていく下半身に気付いてほしくて、春歌はもう少し大きな動作で足を擦り合わせた。
「ん?」
 音也が一瞬、春歌のスカートに視線を落とす。けれど気付かないふりをして、今度は春歌の先端にちゅっと口付けた。身体中に電流が走り抜けたように、春歌は小刻みに震える。
「あっ……ぁ……」
 音也は春歌の双丘をやんわりと揉み、先端を指先で弄ったり口付けるだけで、他には何もしようとしない。それだけでも気持ちが良いのだけれど、やはり物足りなさが残る。
 それでも口にするのは憚られて、なんとか気付いてもらおうと身体を揺り動かしてみるのだが、音也が気付いてくれる様子はなかった。しゅんとして俯くと、音也はぐいと顔を近づけて、春歌を覗き込んできた。
「春歌。して欲しいことがあるなら、ちゃんと言って」
「え……」
「これだけじゃ物足りないんでしょ?」
 にやり、と笑む音也に、春歌は真っ赤になりながら上目遣いに言う。
「……音也くん、意地悪です……」
「だって、可愛いんだもん。ね、俺にどうして欲しいか言って」
 つん、と唇をつつかれる。春歌はスカートの上に置いた拳を、きゅっと握り締めた。
「……音也くんに……触って、欲しい……です」
「どこ? 俺にどこ触って欲しいの?」
「し……下の、熱いところ……」
「ここ?」
 急にスカートの中に指を入れられ、下着越しに触れられて、春歌は驚いてびくんと身体を跳ねさせた。
「ひゃっ! お、音也くん……!」
「へへ、君の今の顔、すごく可愛い」
「み、見ないで……ください……っ」
 そんなお願いなど聞いてもらえるはずもなく、音也はじっと春歌の顔を見ながら、指を動かしている。
「あ、ほんとだ。すごいね、濡れてる……俺が焦らしちゃったから?」
「……っ」
 春歌は俯いてきゅっと目を閉じるだけで、精一杯だ。それでも感じる部分に触れられると、甘い吐息が洩れだしてしまう。
「ぁ……そこ……」
 春歌は知らず知らずのうちに、感じる部分を音也の指に擦りつけるように動いていた。音也もそれを感じ取って、にっと笑う。春歌の感じる部分は、もう既に知り尽くされている。
「ここがいいんだよね」
 小さく頷くと、音也はその部分を執拗に責めてきた。蜜壷が刺激される度、熱いものがどんどん溢れ出して止まらない。下着越しに触れられていることがもどかしく、春歌はもっと強い刺激を得ようと、小刻みに動いた。
 音也がちゅ、と軽くキスをしてきた後、思いがけないことを言う。
「春歌って、えっちだよね」
「え、ええっ……!」
「だって、俺に直接触れて欲しいみたいだから」
「……ご、ごめんなさい……」
 春歌はしゅんとなって俯いた。ほとんど無意識の動きだったとはいえ、さすがにはしたなかっただろう。こんないやらしい自分を見られて、音也には幻滅されてしまったかもしれない――そう思うと、うっすらと目に涙が浮かんだ。すると音也は頬にキスをして、目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭った。
「なんで泣くの? 俺にされるの、ほんとは……嫌?」
「ちが……違うん、です、そうじゃなくて……わたし、はしたない、から」
 そう言うと、今度は唇にキスされた。ねっとりとした、互いを深く求め合うような貪欲な口付け。あまりの熱さに溶けてしまいそうになるくらい、甘くて幸せなキス。
 離れた音也は優しく微笑んで、涙を拭った手で春歌の頬に愛おしむように触れた。
「春歌、可愛い。可愛すぎて、俺、ほんとに我慢できないよ」
「え……」
 嫌われると思っていたのに――思わず洩れ出た戸惑いの声を掬い上げるように、音也はもう一度、今度は軽くキスをする。
「俺、そんなことで春歌のこと嫌ったりしないよ。むしろ、もっと好きになった……かな。俺はえっちな春歌の方が好き」
「音也くん、……あ、きゃっ……!」
 嬉しさを噛み締める間もなく、スカートを下ろされ、ぐっしょりと濡れた下着も取り払われてしまった。襲い来る恥ずかしさから太股を閉じようとするが、音也の手で簡単にこじ開けられてしまう。そのまま音也の指で直接触れられてしまい、春歌の身体の芯がきゅんと疼いた。
「ほんとすごい、濡れてる……挿れてもいい?」
 赤くなりながらこくりと頷くと、音也は濡れそぼった花弁に軽く触れた後、ゆっくりと指を挿れてきた。最初は一本だけでも痛くてひりひりしたけれど、今ではすっかり慣れてしまって、その動きだけでも達せるようになってしまった。
「ひゃ……ぁっ、ん……」
 いやらしい水音がレコーディングルームに響く。防音はきっちりされているし、外に音は洩れないと分かっていても、羞恥が身体を侵食する。音也の指が動いてそれ以上の快感を得ると、ふわっと身体が浮くような感覚がして、そんなことはもうどうでも良くなってしまうのだけれど――
「気持ちいい?」
「あっ、だめ、音也くん、ぁあ……だめ……」
「だめって言うほど、ほんとは感じてるんだよね」
 指を動かしながら、音也はもう一方の手で先程気持ち良かった花弁の上の部分をきゅ、とつねった。途端に快感の渦が春歌を呑み込み、高いところへ連れて行かれたような気分になる。
「あっ、あぁっ……!」
 一瞬白いものが見えて、春歌の身体がふわっと浮き上がる感覚に襲われた。
 すぐに地上に舞い戻ってきて、春歌は椅子の上でぐったりと脱力する。音也はへへ、といたずらっ子のように笑って、指を引き抜いた。途端に春歌は寂しさを覚えて、再び足を擦り合わせる。音也は目で合図している。して欲しいことはちゃんと言って、と。
「音也くんが……欲しいです……」
「うん。俺も春歌が欲しくてたまんないよ」
 そう言うと音也はズボンと下着を下ろして、避妊具を付けると、春歌のぐっしょりと濡れたその部分に自身をあてがった。音也のそれは大きく膨れ上がって、早く春歌が欲しくてたまらないとでもいうように反り返っていた。
「いい、いくよ」
「あっ……きゃ……!」
 少しずつ、時には大きな動きで、音也が中に入り込んでくるのが分かる。微かな痛みに顔をしかめたものの、それはすぐに大きな快感に取って代わられる。
 音也はそのまま春歌を抱き締めて、自分の椅子に座った。春歌はちょうどレコーディングルームの扉に背を向ける格好になった。最初は少し辛かったが、音也の顔を見てキスができるこの体勢は、すっかり春歌のお気に入りになっていた。
「どうしよう、久しぶりだから……俺、あんまり保たない、かも」
 音也の顔が少ししかめられている。けれどもそれは苦痛ではなくて、大きな快感に耐えている表情。
「音也くんも……その、気持ち……いいですか?」
「うん、すっごく気持ちいいよ。だって春歌の中、すごく温かくて……ぎゅって俺を抱き締めてくれてるみたいだから」
 ゆっくりと腰を動かし始めた音也のものが大きく硬くなったのが、自分でも分かった。音也も感じてくれているのが嬉しくて、春歌は自然と笑みをこぼしていた。肩に手を置いて、そっと唇にキスをする。した後で我に返って慌てて離れると、音也はにっこりと笑って追いかけてきた。
「春歌からしてくれるなんて、嬉しいな」
「あ……ご、ごめんなさ、」
「なんで謝るの。逃げないで、俺のことちゃんと見て」
 唇を重ねられて、否が応でも音也と向き合う。恥ずかしくてたまらないのに、こんなにも幸せなのはどうしてだろう。音也に見つめられているだけで、音也がそこにいると分かるだけで、自分はこんなにも嬉しくなれる。キスを終えて音也が再び腰を揺らすと、せり上がる快感にたまらず声を洩らした。
「音也くん、あぁっ……ぁん、音也くん、だめ、も……っ」
「っ、く……俺も……我慢できないかも……っ」
「あっ、ああっ……!」
 そのまま二人で達してしまうのではないかと思われた、その時だった。

 コンコン。

 軽く、しかしはっきりと鳴らされたノックの音が、二人を現実へと引き戻した。音也の腰の動きが止まり、春歌はおそるおそる後ろの扉を振り返る。
「誰?」
 音也が少し大きめの声で尋ねると、すぐに答えは返ってきた。
「私です、トキヤです。音也、いいですか?」
 それは音也と寮で同室のトキヤの声だった。春歌も何度か顔を合わせたことがある。アイドルのHAYATOに似ているが、太陽のように明るいHAYATOとは対照的に、静かに光り輝く月のような雰囲気を持った人物だった。
 春歌は自分たちの今の体勢を思い出して戦慄した。万が一トキヤがここに入ってきたら――言い訳などできようはずもない。ましてやこの学園では恋愛禁止なのだ。自分たちの関係を知りながら口出ししないようにしてくれているトキヤも、こんな姿を見たら憤慨するに違いない。あらゆる恐怖を想像して、春歌の身体は震えた。
 対する音也は冷静だった。繋がったままだというのに、何でもないというような表情で、普段通りの声を出して応対している。
「あ、トキヤ、悪いけど、今は入ってこないで。真剣に話し合いしてるとこだから」
 こんな時にすらすらと嘘が言える音也を、純粋にすごい、と思う。
「……分かりました。それで音也、あなたに貸したはずのCD、どこに置いてるんですか? 今必要なのですが」
「あれは……確か、棚の上に置いてなかった? ほら、テレビの横の……」
「分かりました、取ってきます。全く、そんなところに置いたままにしているなんて……人が貸したものなんですから、もう少し丁寧に扱ってください」
「ごめんってば」
 そう言いながら、急に音也が腰を動かした。奥を突かれて、春歌の口から声が洩れる。
「ひぁっ……!」
 驚いて春歌が音也を見ると、音也はいたずらっぽい笑みを浮かべていた。完全にわざとだ。それを合図に、音也は再び腰を振り始める。外にはまだトキヤがいる。声を聞かれるわけにはいかないのに、久しぶりの快感はあまりにも心地よくて、春歌の理性をぐらぐらと揺らしてしまう。
「あっ、や、音也く……っ、だめぇ……っ」
「あ、そういえば……七海さんも、そこにいますか?」
 外からトキヤの声が聞こえてきて、春歌は慌てて口を塞いだ。音也を見ると、答えた方がいいよ、と視線で促してくる。
「ぁ……はい、います……」
「ちょうど良かった。先程月宮先生が、あなたのことを探していましたよ」
「……ひぁっ、あ、は、はい……っん、ありがと、っ、ございますっ」
 トキヤと話している最中なのに、音也は動きを止めてくれない。気付かれないようにとひたすら願いながら、トキヤの次の言葉を待った。
 トキヤには幸い不審がられなかったのか、では、と短く声がした後、その場を離れていく靴音が響いた。そこでようやく安堵して、春歌は音也の方に向き直り、無意識に強張らせていた肩の力を抜いた。
「良かった……」
 そう思った途端。
「あっ、トキヤ戻ってきた!」
「えっ!?」
 音也が突然そんなことを言い出し、春歌は思わずきゅっと身体を縮こまらせた。だが靴音も、トキヤの声もしない。おそるおそる音也の方を見ると、音也は無邪気に笑っていた。
「やっぱそうなんだ。すご……春歌のナカ、さっき、すっごい締まった」
「え……ち、ちょっと、音也くん……!」
「トキヤが来た時も話し掛けられてる時もさ、ぎゅっぎゅって締まってたからもしかしてって思ったんだけど……やっぱりね。そっかー、春歌ってばほんと可愛いなぁ、もう」
 春歌はそこでようやく気付く。さっきのは音也の冗談だったのだ。トキヤが来る、と言って、無意識に身体を縮こまらせた春歌の反応を見て面白がっていたのだろう。
「も、もう、音也くん! 冗談はやめてくださ、っぁ……!」
 怒ろうとしたのに、音也は軽く腰を揺すってその言葉を遮ってしまった。そして春歌の真っ赤に染まった耳元に、唇を寄せる。
「ねえどうする? トキヤが言ってたけど、リンちゃん、春歌のこと探してたんだよね? 今ここに入ってきたらどうする?」
「えっ、そんな……ぁっ……!」
 音也に耳元で囁かれると、途端にそれが現実になったらという妄想に取りつかれて、春歌はまた身体を縮こまらせてしまう。それと同時に、音也の小さな声と吐息が洩れ聞こえて、春歌の心臓の鼓動が速くなった。
「っ、すご……ぎゅって、締め付けられてるみたい……」
「や……言わないで、音也くん……」
「俺、気持ちよくてすぐイっちゃいそ……ごめん春歌、いい?」
「う、うん……」
 音也の声から余裕が徐々に消え失せていくのが分かった。先程までいたずらっぽく笑っていたはずの表情からも、余裕がなくなっている。音也は先程以上に、春歌を突き上げるように激しく腰を動かした。強い快感が容赦なく襲ってきて、春歌は何度も何度も声を上げた。
「あっ、あ、だめっ、激しくしちゃ……ぁっ……!」
「ごめん、春歌、俺もうダメ……春歌のナカ、気持ち良すぎるよ」
「や、音也くん、そんなこと……ぁあ、わたしも……っ」
「春歌っ……!」
 名を呼ばれた直後、音也の熱いものが放たれていくのが分かった。春歌もぐったりとして、音也にもたれかかるように、身を任せていた。


「春歌ってもしかして、人に見られると興奮しちゃうタイプ?」
 後始末を終えて、ようやく話し合いに入ろうとしたところなのに、音也はそんなことを聞いてくる。春歌は真っ赤になって、ぶんぶんと首を横に振った。
「そ、そんなことっ、ありませんっ」
「でも、トキヤが来た時、すっごい締まってたし……今度からもうちょっと危険な場所でする? 誰か来そうなところ。例えば寮とか、教室とか」
「そ、そんなの、嫌ですっ……! 誰かに見られたら、恥ずかしくて死んでしまいます」
 首を振って必死に拒否を示しているのに、音也は楽しそうに笑いながら眺めているだけだ。
「だって、春歌のいやとかだめっていうのは、こういう時は『もっとして』って意味でしょ?」
「ち、違います、ほんとにだめですっ、絶対だめです!」
「そっか。ごめん、ちょっとからかってみただけ。でもさ、」
 謝った後、音也はテーブルから身を乗り出して春歌の耳元に囁きかけてくる。
「そういうのなしで、ほんとに俺の部屋に来ない? トキヤ、しょっちゅう外出してるから、滅多に帰ってこないし」
「で、でも……」
 今日みたいなことがないとは限らない。むしろトキヤにとっては自分の部屋でもあるのだから、無条件で入り込まれてしまう可能性がぐっと高くなるのだ。それなのに――
「大丈夫。何にもしないようにするから。春歌は俺の部屋に遊びに来るだけ。それならいいでしょ?」
「う……うん……」
 頷くと、良かった、と音也は顔をほころばせた。
 何もしない、が嘘だということは、春歌も知っている。音也は我慢が苦手で、いつだって熱い思いをぶつけてくる人だということも。でも、そういう音也が春歌は好きなのだ。音也とこうして、深く身体を重ね合わせることも。
 あっさりと頷いて承諾してしまった自分は少しはしたないのかもしれないと思いながら、春歌は音也の部屋に行く自分を思い浮かべて、胸の高鳴りを抑えられなかった。
(2012.1.5)
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