それはまるでせせらぎのように

「音也くん、お誕生日おめでとう」
「ありがと、春歌! 俺、今最高に幸せっ!」
 夜道を二人で歩きながら、音也が手を空に向かってめいっぱい伸ばす。
 仕事が終わった後、事務所に寄った音也を出迎えたのは、誕生日ケーキとご馳走を用意して待っていた同期一同と、早乙女学園の先生達だった。その中にはもちろん、音也のパートナーである春歌も含まれていた。ケーキやご馳走を食べ、事前に用意しておいたプレゼントを渡し、皆で音也の誕生日を祝った。音也は最初少し涙ぐんだ様子を見せていたが、やがていつもの笑顔に戻って、皆と楽しそうに談笑していた。
 最後まで残って片付けを手伝い、音也と春歌は二人で事務所を出て寮に向かった。夜道を二人で歩くのは初めてではないが、今日は何だか特別な感じがした。音也の温もりが、まだ肌寒い4月上旬の夜の空気にさらされて冷えてしまった身体を芯から温めていく。
 それと同時に、この肌寒さと先程色んなものを飲み食いしたせいか、春歌の下半身はあることを訴え始めていた。けれど、まだ気になる程度のものだ。寮の部屋に帰ってからで大丈夫、と心の中で頷きながら、春歌は音也の手をそっと握り返した。


 やがて寮の前に着き、二人は部屋までの階段を上った。二人の部屋は隣同士にあるから、ぎりぎりまで近くにいられることが嬉しかった。
 二人の部屋の前で、じゃあまた明日、と音也の手を離そうとした春歌は、直後強い力で抱き寄せられていた。目の前に音也の顔が見える。咄嗟のことで驚いて震える唇は、そこに触れるもう一つの唇の存在を強く訴え続けていた。
「ん、っはぁっ……」
 音也の唇が、食むように角度を変えて春歌に口付けてくる。いつもなら、こうして自分を求めてくれることが嬉しくて嬉しくてたまらないはずなのに、今日の春歌は少し違った。頭の中では嬉しいという感情よりも、どうしよう、という五文字がぐるぐると回り続けている。この次に言われる言葉は、一つしかない。
「春歌……今日、俺の部屋に来て。だめ?」
 嬉しくて、いつもなら一回でこくんと頷いてしまうのに。
 春歌の中で葛藤が生じていた。このまま音也の部屋に行けば、まず間違いなくそういうことになるのだろう。春歌の下半身は引き続き、少しずつ強くなっていく尿意を訴えていた。こんな時に、トイレに行きたい、なんて言えるわけがない。まして、大好きな男の子の前で。
「う……うん……いい、よ……」
 迷った末、春歌は結局頷いてしまった。
 今日は音也の誕生日だ。ここで春歌が自分の都合で断ってしまったら、音也はきっとがっかりするだろう。せっかくの誕生日なのに、みんなで祝って楽しい気持ちになったところだったのに、最後の最後にがっかりなんてさせたくなかった。それに何より、自分だって音也とそうなることを望んでいる。
「良かった」
 音也はにこりと笑って、心配が渦巻いて不安げな春歌を抱き寄せると、部屋の中に連れて行った。


 音也は寝室にも行かないまま、リビングのソファで春歌を押し倒した。
「きゃ……!」
 驚いて思わず身をすくませる春歌に、音也は覆い被さってくる。
「我慢できないよ。ね、春歌……今日は俺の誕生日だから、俺のお願い、なんでも聞いてくれる?」
「えっ、ええっ……」
「ね……だめ?」
 子犬のような目でねだられたら、嫌だなんて言えなくなる。音也は春歌にとっていつもは格好いい、大好きな人だけれど、時折こんなふうに小首を傾げて、唇をきゅっと閉じて、おねだりをしてくる時があった。そんな時、胸がきゅんと締め付けられて、春歌はどうしていいかわからなくなって、いつもお願いを聞いてしまう。それがどんなに恥ずかしいことであっても、だ。
 迫りくる尿意に耐えながら、春歌は一旦唾を呑み込んだ。
「……う、うん……今日は、その……音也くんの、好きにしてください……」
「春歌……今の、すっげーエロい……興奮した」
 先程のような深い深いキスを、今度は少し激しめに続ける音也。ソファが軋む音を聞きながら、春歌は音也のキスを受け止めるので精一杯だった。音也の体重が身体に少しかかるたび、ときめきとは違う意味でどきりとしてしまう。
 春歌はぴったりと膝を閉じて、襲い来る波に耐えようとした。けれども音也は当然、それを許してはくれない。
「なんで閉じてるの? 春歌……濡れてるんでしょ」
「ぁ、ちょっと……音也くん、だめっ……」
「春歌はだめって言うほど、すっごく気持ち良くなってるって俺、知ってるから」
 唇の端を上げて笑う音也の顔が、小悪魔のように思えてくる。本当にだめなのに。けれどいくら言ったところで、きっと音也は聞いてくれないだろう。
 スカートも下着もあっという間に下ろされてしまい、音也の顔が春歌の膝を割って侵入してくる。花弁の先を舌でくすぐられた時、春歌はいつも以上に大きな声を上げてしまった。
「あっ、やぁっ……! お、音也くん、だめですっ、汚いからっ……」
「なんで? 俺、春歌を汚いなんて思ったこと、一度もないよ」
 確かに今までも、きちんとお互いにシャワーを浴びてからするセックスは少なかったように思う。というのも音也がいつも、早く早くと言わんばかりに春歌を部屋の中で押し倒して始めてしまうからなのだ。年頃の春歌としてはきちんと綺麗な身体で音也と向き合いたいのだけれど、音也がいいと言ってくれるし、音也の手で一旦気持ち良くされてしまうと、そんなことはもうどうでもよくなってしまうのだ。
 だが、今はそんな気分ではなかった。音也に秘所を刺激されるたびに、高まる尿意が決壊してしまいそうになる。せめて一人でシャワーに行かせてもらえれば、こっそり済ませることもできたかもしれないのに。
「も、ぁっ、だめぇ……」
 膝を合わせられないのならせめてと身をよじって耐えようとするのだが、そうする度に秘所を自分から音也の口に押しつける形になってしまって、あまりの恥ずかしさに春歌はうっすらと涙ぐんだ。それ以上に、いつも愛撫されている時とはまた違う快感が身体を通り抜けていくのを感じて、春歌は思わず熱っぽい溜息を吐いた。
 案の定音也は誤解したらしく、舌を使っていやらしい水音を響かせながら、春歌を嬉しそうに上目遣いに見つめてくる。
「今日の春歌、……んっ、すごくエッチだね……そんなに、っはぁっ、こうして欲しかったんだ?」
「ちが……違いますぅっ……あんっ、ほんと、だめぇ……出ちゃう……っ」
 掠れるように発せられたその言葉すら、音也は聞き逃さない。
「なになに? 春歌、何が出ちゃうの?」
 春歌は思わずはっとした。けれど恥ずかしがるよりも先に身体が動く。我慢するために身体をくねらせて、春歌はひたすら首を横に振った。音也は何を思ったか笑って、春歌を安心させるように、太股を優しく撫でる。
「大丈夫。しちゃっていいよ。女の人って、気持ち良くなったら、出ちゃうものなんだって。潮噴き」
「ちが、違うんですっ、そうじゃなくて、ほんとにっ……!」
 音也はまだ誤解している。春歌は首を横に振り続けた。そうじゃない。本当に今、自分がしたくてたまらないのは――
 そこでようやく、音也も気付いたらしい。軽く首を傾げて、その言葉を放った。
「……もしかして、春歌、おしっこ我慢してるの?」
 春歌の動きがぴたり、と止まる。肯定すべきかどうか、一瞬躊躇った。
「気持ち良くて、なんか出そう、じゃなくて?」
 そこでようやく、春歌はぎこちなく頷いた。
「ほんとにほんとに、おしっこしたいの?」
 春歌は羞恥も忘れてこくこくと頷いていた。すると音也は何故かにっこりと笑った。その笑みの理由が分からなくて、春歌は不安になる。
「あ、あの、わたし……」
「じゃあ、お風呂行こっか。一緒に」
「え……?」
 春歌がきょとんとしている間に、音也は春歌の膝裏と肩に手を回し、一気に抱きかかえた。
「きゃあっ……!」
「俺と一緒にお風呂入ろ。ねっ」
 風呂場で音也に何をされるのかわからない不安に襲われながらも、春歌はきゅっと股を閉じて、限界に達しそうな尿意に耐えることしかできなかった。


 脱衣所でお互いに一糸纏わぬ姿になって、春歌は音也に抱きかかえられたまま、風呂場に連れて来られた。
 風呂場のタイルに足を下ろされ、音也が椅子に座るのと合わせて、彼の膝に身体を乗せられる。音也の手が後ろから伸びてきて、蕩けたその部分を指先で弄られた。
「ぁっ! や……だめっ、も……」
「いいよ、春歌。ここでして。おしっこ」
 春歌は思わず耳を疑った。僅かに残った理性で、首を少し後ろに向ける。一体どういうことなのか、と問うために。
 それを察した音也が、へへ、と笑いながら、ゆるゆると指を中で上下させる。
「大丈夫、お風呂場だし、すぐに流せばいいから」
「そっ、そういうことじゃ、なくてっ……ぁっ」
「俺、春歌がおしっこしてるとこ見てみたいなー。今日は春歌のこと、俺の好きなようにしていいんでしょ?」
 確かに先程はそう言った。だがこんなことをさせられるなんて一体誰が想像しただろう。大好きな音也の前でトイレに行きたいというだけでも恥ずかしくてたまらないというのに、まさか目の前で放尿させられてしまうだなんて。今の春歌が考え得る中で、最高に恥ずかしいシチュエーションだった。
 それでも身体は先程から激しい尿意を訴え続けていて、もうとっくに限界を迎えていた。身体を強張らせて、唇を噛んで必死に耐えても、もう無理だ。その上音也に敏感な花弁をこんなふうに弄られてしまったら、我慢なんてできるはずがない。
「ぁっ、あぁっ……だめぇえっ……出ちゃうっ……!」
 春歌の身体が、びくん、と震えた。
 同時に、身体から放出された温かい尿が風呂場のタイルに跳ね返って、激しい水音を響かせた。恥ずかしくてたまらなくなって、春歌は瞳に涙を浮かべた。音也は春歌の身体を片方の腕で捕まえたまま、後ろからじっとその様子を見つめているのがわかる。
「わ、すごい……いっぱいおしっこ出てる……春歌、こんなに我慢してたんだ?」
 早く止まって欲しいのに、めいっぱい我慢していたせいで、放尿が止まらない。音也に見られている羞恥と、放尿の快感が相まって、春歌の腰は心地よい痺れに支配されていった。いつの間にか顎も軽く上がって、溜息すら吐いていた。
 瞳から零れた涙が頬を伝う。恥ずかしくて恥ずかしくて、もうこの場から消えてなくなってしまいたいくらい恥ずかしい。けれど音也の指で大事な部分を触れられながらおしっこをすることに、少なからず快感を覚えている自分がいることに気付く。
「春歌、おしっこいっぱい出せて、気持ちいい?」
「やぁっ……そんな、ことっ……」
 心を読まれてしまったような気がして、春歌は慌てて首を横に振る。それでも音也は春歌の秘所から勢いよく迸る尿を見ながら、言葉を続けた。
「俺、一回授業中に行きたくなって、ずーっと我慢して、休み時間にやっとトイレでおしっこした時、すげー気持ち良かったことがあるよ。だから春歌もそうなのかなぁって」
「っ……!」
 春歌は力なく首を横に振った。それをどう取られたのかは分からないが、肯定も否定もはっきりとできない春歌には、それが精一杯だった。
 徐々に勢いがなくなって、ぽた、ぽた、と滴り落ちる程度になった頃には、春歌の身体は脱力しきっていた。音也に身を任せて深く溜息をつくと、音也はシャワーを手繰り寄せて、尿を排水溝へと流していった。
「春歌のここも、ちゃんと洗っておいてあげる」
 そう言いながら、勢いよく湯を放出するシャワーを春歌の秘所の近くで当てる。音也の指とシャワーから出る湯の快感がない交ぜになって、春歌は身体を揺らしながら大きな声で喘いでしまった。
「あぁっ……ふぁ……音也くん……っ」
「へへ、気持ちいい? もう綺麗になったよ、はい」
 音也はきゅ、とコックを捻ってシャワーを止め、春歌の顔を後ろから覗き込んだ。
 まるで夢を見ているような、ふわふわとした感覚が残った。先程まで感じていた微かに鼻を突くアンモニア臭も、もう慣れてしまったのか、ほとんど気にならなくなっていた。ただ、腰を浮かされたような、水にたゆたっているような、不思議な感覚だけが残っていた。音也の前で放尿してしまった羞恥よりも、身体に刻み込まれた放尿とシャワーの快感の方が、ずっとずっと強い。
 そのままぼうっとしていたら、音也が思いがけないことを言い出した。
「さっきシャワー浴びたら、俺もおしっこしたくなっちゃった。ここでしていい?」
「え、ここでって……」
「俺も春歌みたいに、ここでしちゃダメ?」
 またあの時みたいな、おねだりする時の目。自分がしてしまったのに駄目だなんて言えるわけがなくて、春歌は首を横に振った。
「へへ。良かった」
 音也はきゅっと春歌を抱き寄せて、春歌の太股の間から自身を突き出す格好になった。やがて音也の身体が微かに震え、その先から黄色い液体が飛び出してきた。
 しゃああ、という水音が、妙に心地よいものに聞こえる。
「すごい、なんか噴水みたい」
 春歌の太股の間から出るそれは、本当に噴水のように高く上がって放物線を描いていた。落ちてきた温かな尿が春歌の膝や足にかかる。音也はわざと身体をずらして、春歌の膝裏に尿をかけた。突然のことに驚いて、春歌は軽く身体を浮かせてしまう。
「きゃっ! お、音也くん!」
「後でちゃんと流すから。でも、春歌は俺のものだってマーキングしとくんだよ」
 犬みたいでしょ、と笑う音也に、春歌の頬も自然と緩んでしまう。こうしていると、本当に音也は子犬みたいだ。キスがしたい、春歌が欲しい、と迫ってくる音也は狼のようなのに、こんな子犬のような可愛らしい一面を見せられると、なんとも言えない気分になる。
 やがてその勢いも収まって、音也は再びシャワーのコックを捻った。濡れた春歌の身体も丁寧にシャワーで洗ってくれる音也を見ながら、流されていく音也の名残を少し残念そうに見つめている自分がいた。
 シャワーを止めて、音也が再び春歌の顔に唇を近づけてくる。
「春歌、俺もう我慢できないから、ここでしちゃっていい?」
「えっ、お風呂場で……ですか?」
「うん」
 てっきり身体だけ洗って戻るのだと思っていた。だがそうするのももどかしい、ということなのだろう。それは確かに春歌も同じだった。昂ぶってしまった心が、早く音也が欲しいと訴え続けている。
 春歌は少しお尻を動かして、身体を後ろに向け、音也と目を合わせた。唇に微笑みを浮かべて。
「今日は、音也くんの好きにしてください……」
「ほんと? やった! 今日は春歌といっぱい新しいこと一緒にできて嬉しいな」
 おしっこも、お風呂でするのも初めてだもんね。そう言う音也に、春歌は真っ赤になる。
「も、もう、言わないで音也くんっ!」
「へへ。恥ずかしがってる春歌、可愛い。また一緒にしようなっ」
 何を、と聞く前に、音也の指で、蕩けたそこを再びほぐされていく。同時に、太股に当たった音也のものが、大きく硬くなっていく。二人ともが同時に、繋がる準備を始めたことを、純粋に嬉しく思った。
 春歌は幸せな気持ちになりながら、ふわふわとした気持ちのまま、音也の名前を何度も呼んだ。タイルや壁に跳ね返って反射する水音のように、それに応じて自分を呼ぶ声が返ってくるのは、なんて幸せなことなんだろうと、うっとりとした気分で、音也の身体に身を沈めていった。
(2012.4.16)
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