これからふたりで

 戦争終結後、一年経った大樹の節の初旬。
 かつて士官学校で共に過ごした学友達や、ヴァーリ領の領民達に見守られながら、ヴァーリ伯ベルナデッタとその夫ラファエルの結婚式が盛大に執り行われた。
 ラファエルの荒療治が功を奏し、全く人見知りすることなく領民達と言葉を交わせるようになったベルナデッタの劇的ともいえる変化を、久々に会った学友達は驚きつつも喜ばしいことと受け止めた。一通りの式が済んだ後、夫ラファエルの逞しい両腕に抱えられながら、ベルナデッタは城下町を一周し、あちこちから大きな祝福を受けた。
 形式通りの厳かな式ではないものの、自分たちらしいともいえる式となり、ベルナデッタはこの上ない幸福に包まれていた。


 その夜のこと。
 ベルナデッタはガウンを羽織った姿で、寝室のベッドに腰掛けていた。これから起こることを考えて、緊張で倒れそうになりながら。
 そうしているうちに、外から少し荒々しい足音がして、扉が叩かれた。
「ベルナデッタさん、入ってもいいかあ?」
「は……はは、はい!」
 心臓が喉から飛び出しそうになりながら、ベルナデッタは答えた。
 扉が開き、ラファエルが入ってくる。ラファエルはいつもと変わらず、柔らかい表情でベルナデッタを愛おしそうに見つめていた。こんな時でも緊張しないラファエルを、心底羨ましいと思う。人見知りは克服されたが、初めてのことに対してはどうしても緊張してしまう。これは万人に共通することだろうから、緊張していないラファエルがむしろ異質なのだろうが。
 ラファエルは緊張した面持ちのベルナデッタを見て、怪訝そうに首を傾げた。
「ベルナデッタさん、なんでそんな怯えたような顔、してるんだあ?」
「お、怯えてはないですけど……ラ、ラファエルさんは平気なんですか?」
「別に、オデはいつも通りだけど……なんかあったのか?」
 ラファエルは本当に分かっていないのか、ただ緊張していないだけなのか判断がつきかねたが、ベルナデッタは勇気を振り絞って言った。
「だ、だって初夜ですよ、初夜! あたしとラファエルさんが、その、初めて、一緒に、ここで寝る日、で……」
 その後のことを思わず想像してしまい、ベルナデッタは真っ赤になって俯いた。
「なんだ、そんなことかあ」
 ラファエルは豪快に笑いながら、ベルナデッタの隣に勢いよく腰掛けた。
「わあぁっ!」
 その弾みでベルナデッタの身体が浮き上がり、ベルナデッタは思わず隣のラファエルに抱きつく格好となってしまった。ラファエルはいつもと変わらず優しく抱き留めてくれたが、身体が密着してしまったことで、更にベルナデッタの緊張が高まってしまう。
「あ、ああああの、ラ、ラファエルさんっ」
「ベルナデッタさんはやっぱりちっちゃくて、可愛くて、やわらけえなあ」
「あ、そそそ、そんなこと……」
 普段もラファエルからよく言われていることなのに、いつも以上に心臓の鼓動が速くなる。ラファエルは背に手を回し、優しく愛おしげにベルナデッタを引き寄せてくれた。
「今日から、ベルナデッタさんがオデの嫁さんになったんだなあ。なんだか嬉しくてよお、夢みたいだあ」
 しみじみと噛み締めるように言われて、ベルナデッタも今日の式のことを思い出す。懐かしい学友達に祝福されて、すっかり親しくなった領民達からも祝福されて、麗らかな春の陽気にも祝福されて。これまで生きてきた中で、一番幸せと感じた瞬間だった。何より、この逞しい身体と腕で自分を受け入れてくれるラファエルと、これからの人生を歩めること。一生治らないと思っていた自分の人見知りと引き籠もりを克服させてくれた彼となら、これからどんなことがあっても乗り越えていける気がした。
 緊張一色だった心の中に、幸福感がじわじわと溢れ出してくる。ベルナデッタの表情が緩んだのを見て、ラファエルは満足そうに笑った。
「良かったあ。ベルナデッタさんが笑ってくれて」
「はい。その、緊張しなくなった、ってわけじゃないですけど。でも、大丈夫です。たぶん」
 ベルナデッタも笑って頷いた。
「その、あ、あたし、ちゃんと綺麗にしてきた、ので……ラファエルさんの、好きなようにしてください……っ」
 頬を赤く染めながら、ベルナデッタが覚悟を決めてそう言うと、ラファエルも同じように頬を赤らめて、わかった、と頷いた。
「でも、オデもベルナデッタさんがイヤがることはしたくねえからよお。イヤだったらちゃんと言ってくれよ、な?」
「わ、わかりました……っ」
 緊張で少し身体が強張りつつも、彼の心遣いを心底嬉しいと思った。
 彼と二度目に言葉を交わした、ガルグ=マクの温室でのことを思い出した。完全な被害妄想だけでラファエルを怖がるベルナデッタに対し、傷ついた表情で謝罪してもう近づかないと告げたラファエル。あの時は本当に悪いことをしたと、今でも思い出しただけで胸が痛くなる。だが、あの頃からラファエルは何も変わっていないのだと、ベルナデッタは安心感を覚えた。ベルナデッタのことを全く責めず、優しく受け止めてくれた、あの時のラファエルのままだ。戦争後半ば無理矢理街中を引きずり回して人見知りを克服させられた時は鬼の所業かと思ったが、あれもベルナデッタを思えばこその行いだ。彼の愛情が自分に一途に向けられていると分かって、ベルナデッタはいつも温かい気持ちになるのだった。
 だからこそ、自分に出来る範囲で、彼にも愛情を返したくなる。
「あ、あの……服、脱ぎましょうか?」
「お、おう」
 いつの間にか、ラファエルも少し緊張した面持ちになっていた。あの彼がこんな表情を、と思うと少しおかしくて笑い出したくなったが、それを堪えて、ベルナデッタは羽織っていたガウンをベッドの下に落とした。
 初めて彼に下着姿を晒して、そわそわと落ち着かない気持ちになる。ラファエルはベルナデッタの全身を眺め回して、大きく溜息をついていた。
「ベルナデッタさん……、綺麗だあ……」
「あ、あんまり見ないでくださいい……恥ずかしい……」
「でも、すごく綺麗で……オデ、ずっと見ていたくなっちまうよお。なあ、ベルナデッタさん、触っても……いいか?」
 胸の鼓動が耳にまで聞こえそうなくらい高鳴る。ベルナデッタはゆっくりと頷いた。
 ラファエルのごつごつとした太い指が近づいてくる。下着の上から胸にやわやわと触れられて、ベルナデッタは思わず声を上げてしまう。驚いたようにラファエルが手を引っ込めるのを見て、ベルナデッタは慌てて首を横に振った。
「ち、違いますう、びっくりしただけで……さ、触ってください、ラファエルさん……」
「お、おう……」
 ラファエルは頷いて、もう一度手を伸ばしてきた。彼の右手が、壊れ物を扱うかのような優しい手つきでベルナデッタの左胸に触れてくる。やがてゆるゆると揉みしだかれると、ベルナデッタは熱のこもった吐息を洩らした。
「はぁ……っ、ラファエルさん……」
「ベルナデッタさんの胸、やわらけえ……オデ、こんなやわらけえもん、生まれて初めて触った……」
 ラファエルの息が少しずつ荒くなっているのが分かった。自分と同じで、彼も昂ぶっているのだと分かった。
 触れ合うのが下着越しで、少しばかりもどかしさを感じ始めたベルナデッタは、自分から胸の下着を取り払った。
 小さな、しかししっかりとした弾力のある双丘が剥き出しになる。ラファエルはもう一度大きな溜息をついた後、同じようにやわやわと両胸を揉みしだいた。大きくて逞しい両手でしっかりと掴まれて、手のひらを乳首にぐいぐいと押しつけられて、ベルナデッタの身体中を初めての快感が駆け抜けていく。
「ああん……ラファエルさん、きもちいいですう……」
 ベルナデッタは快感でぼうっとなりながら、思ったまま口にしていた。ラファエルは訓練をする時よりも荒々しく息を吐いて、ベルナデッタの胸を揉むことに夢中になっているようだった。そのうちベルナデッタの許可を得ないまま、胸の突起に口付けてきた。
「ひゃあっ!?」
 最初は驚いて飛び上がったものの、ラファエルに優しく吸い付かれて、ベルナデッタはすぐその快感に夢中になった。ラファエルに片方の胸を揉まれながら、片方の胸に吸い付かれる。大好きな人に、こんなにも求められている。一人の女としての嬉しさが胸に込み上げ、ベルナデッタは寄せては返す快感の波に合わせて素直に喘いだ。
 そのうち、下腹部に新たな熱が生まれ始めていることに気付いて、ベルナデッタは思わず太ももを擦り合わせた。自分は間違いなく興奮している。その事実を改めて突き付けられたような気がして、ベルナデッタはかあっとなった。
 羞恥とこの先の快感を望む気持ちを天秤に掛けて、すぐに後者が勝った。ずっと自分の胸に夢中になり続けているラファエルに向けて、ベルナデッタは言葉を発する。
「あの、ラファエルさん……あたし、その……下が、切ないんですうっ……」
 ラファエルはすぐに手を止めて、ベルナデッタを見上げた。
「下? ここかあ?」
 下着越しに、誰にも触れられたことのない場所をいきなり撫でられて、ベルナデッタは思わず飛び上がってしまう。
「ひゃああっ! ラ、ラファエルさん!」
「す、すまねえ、つい。イヤだったか?」
 すぐに反省して手を引っ込めるラファエルに、ベルナデッタはかぶりを振った。
「い、嫌じゃ、ないですけどっ。心の準備が、その……で、でも、大丈夫ですっ」
 そう言って力強く頷くと、ラファエルの手が再び伸びてきた。
 布越しにもう一度切ない場所を撫でられて、ベルナデッタは熱い吐息を洩らしてしまう。
「はぁ……んっ……そこ、じんじんするんですうっ……」
「ベルナデッタさん、色っぽくて、オデ、我慢できなくなっちまうよお……」
 ラファエルの表情がこんなに切なげに歪むのを、ベルナデッタは初めて見た。額には玉のような汗が滲んでいる。ふと、ラファエルの下半身に視線を落とすと、明らかに分かるくらいその場所が布越しに隆起していて、ベルナデッタは思わず息を呑んだ。
「なあ、オデも脱いでもいいか?」
「あ、も、もちろんですっ。あたしも……」
 ラファエルが羽織っていたものや下着も全て脱ぎ捨てるのと同時に、ベルナデッタも最後の下着を脱ぎ捨てて、生まれたままの姿で向き合った。
 ラファエルの体格からして、きっとそれなりの大きさのものがあるのだろうと薄々想像はしていたが、想像よりも太く逞しいものが目の前に現れて、ベルナデッタは目眩がした。自分のような小さい身体の人間が、果たしてこれを受け入れられるのだろうか。思わず不安になる。自分は男性のものを受け入れるのすら初めてなのだ。
 ベルナデッタの視線が自分のものに向いているのに気付いたらしく、ラファエルは頬を赤らめながら恥ずかしそうに笑った。
「あ、あんまり見ないでくれよお。ベルナデッタさんがあんまり可愛いから、オデの、こんなになっちまった」
「ご、ごめんなさいい……ラファエルさんの、あんまりにも太くて、大きい、から……」
 素直な感想を口にすると、ラファエルは照れたように頭を掻いた。
 本当にこれを受け入れられるのだろうかという不安。これが挿れられたら自分の身体がどうなるのかという恐れ。そして、初めて見る男性器への興味。様々な感情がベルナデッタの中で入り乱れた末に、ベルナデッタはおそるおそるラファエルの逸物へ手を伸ばしていた。
「ラファエル、さんの」
 茸の傘のような先端に、ベルナデッタの細い指先が触れる。途端にびくん、と弾けるように震えて、ベルナデッタは思わず手を引っ込めた。ラファエルの顔を見上げると、ラファエルは顔面を紅潮させたまま、肩を上下させて荒々しい呼吸を繰り返していた。
「ラファエルさん、その、触っても、いいですか?」
「ああ。オデの、ベルナデッタさんが触ってくれるなんて、夢みてえだなあ」
 感慨深そうに呟く。ラファエルの黄金色の瞳が快感に蕩けていた。ベルナデッタはなんだか嬉しくなって、ラファエルの象徴にもう一度触れた。
 男性が普段一人で性欲を吐き出す時どうしているのか、以前どこかで聞いたことがあった。その時得た知識を引っ張り出してきて、血管の浮き出た場所を指の腹でなぞったり、両手で包み込んで軽く擦ったりしてみる。するとラファエルの先端から、じわりじわりと透明の液が滲み出てきた。
「ラファエルさん、これ……」
 指先ですくい上げてみる。ラファエルははあはあと荒く息を吐きながら、我慢できないとでもいうように腰を軽く突き上げた。
「オデ、そんな、されたら、出ちまうよお……」
「で、出る? 何が――って、あ、」
 ベルナデッタはその答えに思い当たって思わず赤面した。興味本位で触っているだけのつもりだったが、ラファエルの興奮をこれほどまでに高めていたとわかって、強烈な羞恥に襲われた。そのままベルナデッタが手を止めていると、ラファエルは切なげに瞳を揺らした。
「ベルナデッタさん、これじゃあオデ、生殺しされてるみてえだ……」
「あ! あの、ごめんなさいいっ……ええと、その。続けても、いいんですか?」
「ベルナデッタさんがイヤじゃねえなら、続けてくれ、頼む」
 無論、嫌だなどというはずがない。ベルナデッタは頷いて、再び手を動かし始めた。両手で包み込み、ゆっくりと上下させる。天を衝くようにそそり立つラファエルの逸物の先から、だらだらと透明の液が滴り落ちた。
「あぁ、ああ……ベルナデッタさん、オデ、イッちまう……」
 ぼんやりと宙を見つめたまま腰を浮かせて快感に溺れるラファエルを見ながら、愛おしさがこみ上げる。
「ラファエルさん、気持ちいいんですか?」
「ああ、すげえ気持ちいい……ベルナデッタさん、もっと強く握ってくれねえか?」
 そんなふうに頼まれて、断れるわけがない。ベルナデッタは少し強く握って、先程よりももっと速く手を上下に動かした。
「あっ、あ、ベルナデッタさん、オデ、あ、出る――ッ!」
 透明の液が溢れていた小さな穴から、白濁液が水鉄砲のように勢いよく飛び出した。少し顔を近づけていたベルナデッタの頬にかかる。生暖かい感触が愛おしくて、ベルナデッタは微笑みながらそれを指で掬っていた。対するラファエルは何度も肩を上下させて、大きな快感の波間で揺蕩っているようだった。
「ラファエルさん、気持ち、よかったですか?」
 ベルナデッタが尋ねると、ラファエルはようやく我に返ったらしい。黄金色の瞳が真っ直ぐにベルナデッタを捉えた。だがベルナデッタの問いに返答する前に、ラファエルはにわかに慌て始めた。
「あ、ベルナデッタさん、ほ、本当にすまねえ!」
「え? 何が、ですか?」
「だ、だって。オデの、その、かかっちまったんだよな。汚ねえのによお、」
 言いながら、頬にかかった白濁を拭おうと伸ばしてきたラファエルの手を、ベルナデッタはやんわりと握って押し返した。驚いたように目を見開くラファエルに、ベルナデッタは微笑む。
「汚くなんかないですよ。ラファエルさんの、あったかくて、とっても愛おしいです」
 うふふ、と笑いながら頬に残っていた彼の名残を指ですくいきってみせると、ラファエルは幾分か安堵した表情を見せた。
「でも、オデばっかり気持ち良くなってちゃいけねえよな。オデ、ベルナデッタさんにも気持ち良くなってもらいてえ」
 ラファエルは真面目な顔でそう言うと、ベルナデッタをシーツの海へと押し倒した。
 反射的に閉じてしまった足を、ラファエルがやんわりとこじ開ける。軽い愛撫で潤み始めていたベルナデッタの花弁を、ラファエルはまじまじと見つめた。
「や、ラファエルさん、そんなに見られたら、は、恥ずかしいですう……」
「ベルナデッタさん、綺麗だ」
 先程と同じように指で愛撫されるのかと思いきや、ラファエルは思い切り顔を近づけてきた。驚く間もなく、ラファエルの舌がベルナデッタの一番敏感な場所を嬲る。未知の快感が背を駆け抜け、ベルナデッタは全身を震わせた。
「やぁっ! ラ、ラファエルさん、ちょっとぉっ……!」
「なあ、イヤか? イヤなら、止めるけどよお……」
 そう言いながら、潤んだ場所を何度も愛撫されて、ベルナデッタはどうしようもなく喘いでしまう。
「あん、あ、嫌じゃ、ないですけどぉっ、ふあぁん!」
 ずっと待ち望んでいた快感に全身を揺さぶられて、自分がどうなってしまうのか想像もつかない。嫌なわけがないのに、ラファエルさんはずるい――合間に恨みがましい目で見つめてみるが、ラファエルの温かい舌でゆるゆると愛撫されると、もう全てがどうでもよくなってしまった。
 ぴちゃぴちゃといやらしい水音が静かな寝室に響き渡る。ラファエルに愛撫されるたび、ベルナデッタの奥から熱いものが溢れ出してくるのを感じた。
 恥ずかしくてたまらないけれど、ラファエルならばどんな自分も受け止めてくれると分かっているから、ベルナデッタは素直に快感を享受することができる。
「あん、ラファエルさん、はぁん……きもちいい、きもちいいですう……」
 白いシーツを握りしめて、ベルナデッタは艶っぽい声で喘いだ。ラファエルが溢れ出た蜜を、じゅるりと音を立てて啜る。ひときわ敏感な豆を舌先で弄ばれて、ベルナデッタの意識が一瞬飛びかけた。
「ふぁあん! あ、そこ、だめなのぉ……」
「ダメ、なのかあ? なんか、すげえ気持ち良さそうだったけどよお……」
「だ、だめなの、あたし、イッちゃいそうなんですぅ……」
 悦楽に揺さぶられるまま、躊躇いもなくそう告白すると、ラファエルはベルナデッタの太腿を閉じないようにしっかりと掴んだ。
「それじゃあ、ここが、ベルナデッタさんの好きなところなんだな?」
 ラファエルの声はこの上なく楽しげだった。
 花弁にかぶりつかれ、水音を立てながらしゃぶられ、舌先で感じる部分を舐め上げられて、一気に襲い来る快楽に耐えきれず、ベルナデッタは身体を思い切り仰け反らせた。
「あぁん! は、あ、あたし、イッちゃ、――ぁああっ!」
 一瞬眼前に白いものが見えて、ベルナデッタはぴんと背筋を伸ばしたまま達してしまった。直後くたりと脱力し、そのままシーツの海に身を委ねる。
 快楽の海に溺れたまま、焦点が定まらない。視界の中にぼんやりとだけ見える黄金色のひとが、この世で一番愛おしいものだ、ということだけは分かった。温かな気持ちがベルナデッタの全身を満たしていく。
 しばらくの後、ラファエルの顔がはっきりと見えるようになって、ベルナデッタはおもむろに手を伸ばしていた。肉厚な頬からごつごつした顎を撫でるように触れ、その温かみに安堵する。
「ラファエルさん、だいすき」
 ラファエルは驚いたように一瞬目を丸くした後、すぐに笑顔に戻った。
「オデもだ。ベルナデッタさん、愛してるぞ」
 ラファエルの逞しい指がベルナデッタの柔らかい頬を撫でる。そのままずっと優しく撫でられていたい、と思った。うっとりと目を閉じるとすぐ、その指の動きが止まる。どうしたのかと瞼を上げると、ラファエルは少し困ったように頬を掻いていた。
「ベルナデッタさんが気持ち良さそうにしてるの見てたらよお……オデの、また元気になってきちまって……」
 ベルナデッタは少し身体を起こし、ラファエルの下半身へ視線を向けた。そこには一度萎えたはずのラファエルが、再び硬くなって天を向いていた。
 身体の芯がきゅっとつままれたようになって、達したばかりのベルナデッタの蜜壺から、再び温かいものが溢れ出してくるのを感じた。
 ――あたしの身体、ちゃんと準備してくれてる……
 ラファエルに応えたいという気持ちが身体と同調して、彼を受け入れる準備を始めてくれたことを、ベルナデッタはこの上なく嬉しいと感じた。ラファエルの黄金色の瞳と、ベルナデッタの錫色の瞳が交差する。ラファエルが少しにじり寄ってきて、ベルナデッタの開いた花弁に自身の先端を密着させた。ベルナデッタの胸が高鳴る。
「ベルナデッタさん、オデ……ベルナデッタさんと一つになりてえ……」
「ラファエルさん……あたしも……」
 交差した視線が結ばれて、思いは一つになった。
 まずはラファエルの太い指が、ベルナデッタの狭い膣の中を押し広げるようにして入ってくる。ベルナデッタはぴりぴりとした痛みに顔をしかめたが、少しずつ指でこすられながら押し広げられていくと、痛みよりも快感が少しずつ勝っていくのを感じた。
「いいかあ? いく、ぞ!」
 指が引き抜かれて、ラファエルの陰茎の先が密着する。と、先程とは比べものにならない異物感を持って、ラファエル自身がベルナデッタの中に入ってきた。
「ひ、やあああぁっ!?」
 さすがのベルナデッタも、あまりの痛みに悲鳴を上げる。男性器を見るのはこれが初めてだから、標準の大きさというものがどれくらいなのかはわからないが、ラファエルのものがことさら大きく太いのは誰が見ても明らかだ。入っているのはほんの先だけとはいえ、今まで誰のものも受け入れたことがないだけに、押し広げられた痛みがひたすらにベルナデッタを責め続ける。
 先程までは一つになるための雰囲気が出来上がっていたはずなのに、あまりに酷な現実を突きつけられて、ベルナデッタは一気に絶望の底に叩き落とされた。
 身体はきちんと準備をしてくれたはずなのに。本当は二人で密着して気持ち良くなりたいのに。好き合う男女なら、そうなるはずなのに。ベルナデッタは涙が出てきた。それに気付いたラファエルがぎょっとした表情になる。
「ベ、ベルナデッタさん! 痛いのか? やめるか?」
「や、やめたくないんです、けど……い、痛くて……」
 ベルナデッタの頬に静かに涙が伝う。情けなくてたまらない。経験がないことに劣等感を抱いたことはないが、もし自分に経験があったなら、もう少し楽にラファエルを受け入れられたかもしれない、と思うと、こんな自分が少しだけ嫌になってしまう。
「ごめんな。オデの、大きすぎたから……ちっちゃくて可愛いベルナデッタさんに痛い目遭わせてよお……」
 ラファエルは少しだけ入っていた陰茎を引き抜くと、ベルナデッタの髪を優しく撫でてくれた。
「うええん、ラファエルさあん」
 ベルナデッタはラファエルの首に抱きついた。そのまま口づけをねだると、ラファエルはゆっくりと唇を合わせてくれた。好きな人と触れ合うことはこんなにも自分を幸せな気持ちにしてくれるのに。本当に触れ合いたい部分はまだ、相手を受け入れられるようになっていない。そのことが悔しくて辛くてたまらなかった。
「ラファエルさん、すき、すきなの、一つになりたいの。でも、あたし、初めてだから、ラファエルさんのこと、ちゃんと受け入れてあげられなくて……」
「いいんだ、ベルナデッタさん。お前の気持ちはわかってるから……」
 涙を落とし続けるベルナデッタの頬に触れながら、ラファエルが微笑む。
「お前がオデと話すようになって、少しずつ心開いてってくれたみてえに、こっちも少しずつ慣れていけばいい。今日でこれっきり終わり、ってわけじゃねえんだからよお」
 ベルナデッタは一つ一つの言葉を噛み締めながらうんうんと頷いた。零れた涙を拭って、ラファエルを見つめる。ラファエルは変わらず、ベルナデッタをその大きな器で受け止めてくれていた。彼が自分の伴侶で良かったと、こんなにも強く思ったことはなかった。
「……そう、ですよね。あたしとラファエルさんは、今日から夫婦になったんだから……今日から、少しずつ慣れていけばいいんですよね」
「そうだぞ。お前はこれまで色んな人と話して、苦手をちゃんと克服できたんだから、こっちだってきっと上手くいくはずだ。オデはそう信じてるぞ」
 ラファエルに力強く言われると、自信が湧いてくる。これは口だけではなく、根拠がきちんとある上での自信だ。実際、荒療治であったとはいえ、ベルナデッタはラファエルのおかげで人見知りを克服した。あんなに人と話すのが怖かったのに、今ではむしろ、人と話すのが楽しいと思えるほどにまで成長したのだ。
 ラファエルと一緒なら、どんな困難だって乗り越えていける――ベルナデッタは改めてそう強く感じていた。これが結婚して最初の試練だというなら、彼と一緒に乗り越えてみせる。
 ベルナデッタは胸の前で二つ拳を作ってみせた。
「ラファエルさん。あたし、少しずつかもしれないけど、頑張りますから。最後まで、一緒に付き合ってくれますか?」
「おう! もちろんだ」
 ラファエルが満面の笑みで頷く。
 ベルナデッタの下腹部は破瓜の痛みで疼いていたけれど、ラファエルに優しく、それでいて強く口付けられると、その痛みも徐々に緩和されていく気がした。ベルナデッタはラファエルに絡みつくように抱きついて、幾度も口づけをねだった。ラファエルも飽きることなく、その求めに応えてくれた。
 眠りにつく頃にはすっかり痛みは消え失せて、幸福の感情だけがベルナデッタの全身を包んでいた。
(2019.11.7)
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