「アスベル。これを見て」
ある日の夜。そう言ってソフィが差し出してきたのは、光沢のない黒い豆粒のようなものだった。一瞬首を傾げかけて、アスベルはすぐにその正体を理解する。頬を緩めて、ソフィの手の中にあるそれを、指の腹でそうっと撫でた。
「クロソフィの種、だよな?」
確認するように問いかけると、ソフィはこくりと頷いた。世界中を旅していた時に見つけたそれを、ソフィが拾って大切そうにしまっていたのをアスベルも見たことがある。彼女は今、無数のクロソフィの花を花壇に植えているから、そのうちの何輪かが種子を作ったのだろうとアスベルは思った。ソフィが花を大切に世話していたという、何よりの証拠だ。
「そうか。ソフィが育てたクロソフィの花も、お母さんになったんだな」
感慨深く思いながら、アスベルは呟くように言う。まるで手塩をかけて育てた子供が巣立っていった時のような、晴れ晴れしい気分だった。――もっとも、アスベルは人の親になったことなどないから、本当にそういう気持ちになるのかどうかは分からなかったけれども。
ソフィは大きな瞳に疑問を宿して、アスベルに問いかける。
「クロソフィが、お母さん……?」
「そうだ。お母さんになったから、子供ができたんだ。この種は、クロソフィの花の子供なんだよ」
「ふうん……」
ソフィは種子に視線を落とし、しばらく考え込むような仕草をしていた。やがてぱっと顔を上げたかと思うと、アスベルに向かって思いがけない問いを投げかけてきた。
「アスベル。お母さんになるには、一体どうしたらいいの?」
「えっ……」
一瞬、アスベルの呼吸が止まる。やがて思考回路が忙しなく動き、ソフィの言葉の意味をゆっくりと咀嚼し始めた。
アスベルの顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていった。何とか説明しなければと口を開くも、言葉が出てこず魚のようにぱくぱくと開閉させるのみだ。ソフィは変わらずじっとアスベルを見つめている。その瞳は、純粋そのものだった。
「わたしも、お母さんになれる?」
あまりにも無邪気すぎる問いに、アスベルは目を逸らしてしまった。
ソフィはもう、童話の世界の理屈だけで納得するような子供ではない。だからこそ、アスベルは怖かった。おとぎ話の常套句を使って納得させるには、彼女は世界を知りすぎてしまった。
こういう時、教官なら、あるいはヒューバートなら、ソフィが納得するよう上手く説明して窮地を切り抜けることだろう。しかし残念ながら、アスベルは彼らほど口が達者ではないのだった。言葉に詰まっていると、ソフィが怪訝そうな表情で首を傾げてきた。
「アスベルも、知らないの?」
咄嗟にそんなはずはない、と返しそうになって、アスベルは慌てて口をつぐんだ。下手に返せば、ソフィはますます説明を求めて自分に詰め寄ることだろう。
アスベルは考えた挙句、ソフィの言葉に乗ることにした。やや視線を斜め上に向けながら、ごまかし切れず苦笑を洩らす。
「あ、ああ……そう、実は、俺も知らないんだ。はは……」
「……変なアスベル」
ソフィはしばらく不審な目でアスベルを見ていたが、やがてそれ以上の答えが得られないと悟ったのか、種子をきゅっと握りしめると、かつてはヒューバートが使っていた机の引き出しの中にそれをしまった。
――とりあえず、窮地は脱した。アスベルは思わず、深く安堵の溜息をついていた。
それから数日後。喉元過ぎればなんとやらで、一度そのような窮地に陥ったこともすっかり忘れ、アスベルはいつものように執務室で政務に関する書類を読んでいた。鉱山の煇石採掘量に関する書類を読んでいる最中、不明な点がいくつかあったので、アスベルは椅子から立ち上がって、本棚へファイルを捜しに行った。確か父が残した過去の書類を全てまとめたファイルがあったはずだ。
背表紙に素早く視線を走らせつつ探していると、本棚の二段目が乱れていることに気がついた。いくつかの本が、乱雑に棚に押し込まれている。
アスベルは首を傾げた。ここは毎朝メイドが掃除を行っているはずだし、それでなくてもここを頻繁に出入りする几帳面な執事が、このような乱れを黙って見過ごすはずがない。
怪訝な思いに代わってアスベルの心に浮かび上がったのは、何か重要な書類を抜き取られてしまったのではないだろうかという危惧であった。フレデリックに報告すべきか、と考えたその時、ぎい、という音を立てて扉が開いた。アスベルが驚いて振り返ると、そこにはソフィが立っていた。
「ソフィ、どうし――」
尋ねようとして、直後アスベルの目が驚愕に見開かれた。ソフィはいつものソフィではなかった。顔は上気して真っ赤に染まり、とろんとした元気のない瞳でじっとアスベルを見つめている。彼女の右手には、白い無地の表紙の本があった。彼女が本棚から抜き取っていったのか、と考えつつも、アスベルはふらふらと歩き出したソフィの身体を慌てて支えた。
「ソフィ、大丈夫か!? 熱があるのか?」
「アスベル、あつい……」
身体を支えながらソフィの額に手を当てる。それほど熱いとは感じられなかったが、ソフィが元気をなくしてしまったのは確かのようだった。はあ、はあ、と荒く息を吐く彼女を抱き寄せると、驚いたことに、ソフィが手で軽くアスベルを突き放した。
「ソフィ……?」
「だめ。もっともっと、あつくなっちゃうから……」
ただならぬ様子を感じ取り、アスベルは少しばかり膝を折って、ソフィと視線を合わせた。
「一体何があったんだ。ソフィ、話してくれないか?」
「この本、読んだからなの……」
「この本?」
アスベルはソフィの手から本を受け取り、まじまじと表紙を見つめる。表紙にはタイトルも著者名も何も書いていない。ただ白い世界がそこに広がるのみである。アスベルは本の異様さに首を傾げつつ、どこかで見たことがあるような、と記憶の引っ掛かりを感じた。それもこうしてラント領主となってからではなく、もっと幼少期のような――
何気なく真ん中辺りのページを開いたアスベルは、直後目が飛び出るかと思うくらい仰天した。
ページに大きく描かれていたのは、なんと裸体の男女がまぐわう姿だったのである。アスベルは慌てて本を閉じ、床に放り投げた。急激に顔に血が集まってくるのを感じた。
「こ、こんなもの、どこで見つけたんだ!?」
ソフィは荒く息を吐きながら、本棚を指差した。そこは確かに、先程乱れていておや、と思った箇所だった。こんなところにあんな本が隠してあったのか、と思った瞬間、アスベルは思い出した。先程引っかかった記憶の片鱗。いつだったかヒューバートと一緒に父の執務室に潜り込み、本棚をあさっていた時に発見したことがある。すぐに父に見つかって怒鳴られたから全ては読んでいないが、あの過激な絵は、当時のアスベルの心に忘れたくとも忘れられないほどの強烈な印象を植え付けた。あれから数年経った今、さすがに記憶からは失せていたものの、こうして引っ掛かりを感じたということは、どこかでまだ覚えていたということだ。
「な、なんでこんなものを読んだんだ……」
叱るべきなのだろうがその気も失せ、アスベルは力の抜けた状態で尋ねた。ソフィはなおも頬を真っ赤に染めたまま、小さな声で答えた。
「お母さんになりたかったの。この本には、お母さんになる方法が書いてあった」
アスベルは数日前のソフィとのやりとりを思い出した。アスベルは適当なことを言ってその場をやり過ごしてしまったが、ソフィは真剣だったらしい。ソフィの真剣さに応えられなかったことを反省しつつも、厄介なことになってしまったとアスベルは頭を抱えた。
大人の扉を少しばかり開いて、ソフィは知ってしまった。あらゆる段階を超えて、最後に見えるはずの真実を。
「アスベル……」
艶っぽい声で名を呼ばれ、アスベルはびくりと肩を震わせた。彼女はこんな声を出せる人間だったろうか。うっかりソフィと目を合わせてしまったが最後、アスベルはその瞳に釘付けになってしまった。睫毛を揺らして、一心にアスベルを求める瞳。その小さな口から吐き出される熱い息が、アスベルの胸を濡らした。
「アスベル、お願い。わたしをお母さんにして」
ソフィの細い指が、熱の発散場所を求めてアスベルの背を掴む。
アスベルは少女を抱き上げながら、彼女と同じように赤面している自分に気付いた。理性と本能とが、アスベルの脳内で激しい戦いを繰り広げていた。いくら彼女が求めているからといって、ソフィに手を出すのはいかがなものかと諌める理性。己の欲望に従えとけしかける本能。アスベルの下着の中で、欲望の塊が蠢いているのを感じた。こんな艶っぽい声で、艶っぽい瞳で求められたら、たまらない。
「ソフィ」
彼女のりんごのような頬に小さく息を吹きかけながら、アスベルは尋ねる。
「本当に……いいのか。お前にはまだ早いって言ったら?」
ソフィは切なげに目を伏せた。
「アスベルは、わたしがきらい?」
「そうじゃない。でも……」
「わたしは、アスベルが一番好き。だから、アスベルとがいいの。アスベルじゃなきゃ、いや」
ソフィの求める声が、アスベルの心を辛く重く濡らす。様々な思いが心を駆け巡り、弾けた。
「……わかった」
承諾の言葉を告げた。――もう、後戻りはできない。
「一度、部屋に行こう」
ソフィがこくりと頷くのを確認してから、アスベルは彼女を抱き上げて執務室を出た。
華奢な身体をそっとベッドに下ろすと、ソフィはなおも頬を紅色に染めたまま、ゆっくりと手を動かして服を脱ぎ始めた。一応決意はしたものの、突然の行動にアスベルはうろたえる。
「ソ、ソフィ!?」
「最初はこうするって、書いてあった」
ソフィはきっとあの本を隅から隅まで読んだのだ。アスベルは頭を抱えたくなりながら、小さく溜息をついた。この行為に関しては、もしかしたら自分よりソフィの方が知識を持っているかもしれない。アスベルも一通りの知識はあるとはいえ、実際に行為に至ったことはないのだ。
ソフィが上の服をたくしあげると、小ぶりな胸がふるりと揺れて飛び出した。初めて見るそれに戸惑いを覚えつつも、アスベルは目が離せなくなっていた。身体の芯から浮き出て、滑らかな曲線を描く双丘。桃色の突起が、ソフィの身体の動きに応じて小刻みに揺れた。
「わたし、へん?」
アスベルがあまりにもじろじろと見るから不審に思ったのだろう。ソフィの問いに、アスベルは首を横に振った。
「変じゃない。ソフィは……」
「わたしは……?」
「か、可愛い、と思う」
普段使わない言葉を口にしたせいで、アスベルの体内温度が急上昇する。だが、ソフィは安堵したようだった。穏やかに微笑んで、アスベル、と首に抱きついてきた。ソフィの小振りな胸が、アスベルの下ろした腕に当たる。心臓がいやというほど高鳴り始めた。
「ええと、……ええと」
昂ぶり始めたのは確かだったが、それ以上どうすれば良いのか分からず、アスベルは戸惑う。するとソフィがアスベルを真っ直ぐに見つめ、僅かに首を傾げた。
「アスベル? どうしたの?」
「ソフィ、俺は……その」
赤面しながら、アスベルは視線を逸らす。
「経験がないんだ。だから、どうすればいいのか」
「わたしも初めて。だから、アスベルと一緒」
「そりゃ、そうだろうけど……」
「じゃあ、最初はね」
ソフィは頬を微かに赤らめ、ぐっとアスベルの方に顔を近づけた。
「アスベルに、キスしてほしい」
「ん……分かった」
アスベルはソフィと向き合い、改めて覚悟を決めた。自分は真剣にソフィと向き合う。決して逃げてはならない、と。彼女が幼い容姿であるからなどということは、関係ない。自分も彼女も同じ思いを抱いている以上は、向き合わねばならぬことなのだ。
アスベルはそうっとソフィに顔を近づけた。やがて唇の擦れ合う感触。温かなものが、二人の間を流れてゆく。
その行為は、驚くほどにあっさりしていた。けれども、胸にほのかな光が宿るのを感じて、アスベルは顔を離し、微笑んだ。それはソフィも同じだったようで、ゆっくりと柔らかな笑みを浮かべた。それはちょうど、彼女の大好きなクロソフィの花が太陽に向かって咲くように。
「アスベル、あたたかい」
「ああ、ソフィも……暖かかったよ」
華奢な身体を抱き寄せ、その温もりを感じ取る。胸と胸が擦れ合う感覚を味わいながら、アスベルはそっと手を伸ばし、ソフィの胸の突起を指で押した。途端に、腕の中で聞こえるきゃっ、という小さな声。
「アスベル……」
「嫌か?」
「ううん。嫌じゃない……けど」
「けど?」
「……分からない。胸がどきどきして、ここから逃げたいけど、でも、逃げたくないの。アスベルに見せたくないけど、でも、見て欲しいの。これって、どういう気持ちなのかな」
頭を振るソフィ。アスベルは少しばかり考えた後、その感情にぴったり当てはまる言葉を見つけて、ソフィに優しげな視線を送った。
「それはな、ソフィ」
「うん」
「恥ずかしいって気持ち、なんじゃないかな」
「はずかしい?」
ソフィが双髪を横へ揺らす。アスベルはうん、と頷いた。
「そういう気持ちがあるってことは……その、俺もよく分かんないけど、相手を好きってこと、なんだと思う」
なんだか照れくさくなって、アスベルも頬を染めつつ頭を掻いた。ソフィはなおも疑問符を浮かべて、首を傾げる。
「分からない。どうして好きなのに、逃げたいとか、見せたくないって思うの?」
「それは……そうだな。相手にどう思われるか分からなくて、不安だからじゃないか? ソフィだって普段は、人前で服を脱いだりしないだろ?」
「うん。脱ぐのは、お風呂に入る時だけ」
「そう。俺も、ソフィのこんなふうな姿を見るのは初めてだから……だからソフィもどうしたらいいのか分からなくて、逃げたいとか思ったり、戸惑ったりするんじゃないか?」
一つ一つの感情を噛み砕くようにして、アスベルは丁寧に説明した。最初はソフィに納得してもらうためだったが、そうしているうちに、アスベルが胸に抱いていたもやもやとした感情までもが一つの形を成し、すっきりと落ちていくような気がした。ソフィが、そして何より、自分が知りたかった感情はこれだったのだ――アスベルの迷いは、跡形もなく消え去っていた。
ソフィは小さく頷いて、やっと納得してくれたらしかった。
「なんとなく、分かった気がする」
「うん、俺もだ」
「アスベルも?」
「ああ。今まで、何となくもやもやしてたんだが……やっと、お前と、そして俺自身と向き合えるようになった気がする」
ソフィは先程とは打って変わって晴れやかな表情で微笑みを浮かべた。
「アスベル、好きだよ。だから、続き……して」
「……ああ。分かった」
アスベルは再び、指をソフィの胸の蕾に移動させる。小さく押して指を滑らせると、ソフィの口から声が洩れた。
「あ……」
未知の感触に、アスベルはあっという間に夢中になった。柔らかくて、けれど少し硬くて、まるでグミのようだ。はあ、はあ、と小刻みに呼吸をするソフィの唇を塞ぐと、あっという間にアスベルの口腔はソフィの香りで満たされた。
「はあっ……アスベル……」
次第に硬さを増してゆく蕾。ソフィの声が聞きたくて、アスベルは桃色の唇に耳を寄せる。耳が彼女の吐息で濡れていくのが、たまらなく心地よかった。アスベルの指が、今までよりも素早く動く。彼女と同様、荒く息を吐き出しながら。
「アスベル……や……」
「ソフィ……どうした?」
「変なの……あのね」
上気した彼女の唇から、吐息と共に言葉が零れ落ちる。
「……変なの。あついの……」
しゅ、という、太股を擦り合わせる音。その微かな音を、アスベルは聞き逃さなかった。視線を落とすと、ソフィの足がもじもじと動いている。話でしか聞いたことはなかったが、アスベルはその行為の意味を何となく理解した。太股にやんわりと触れると、ソフィの肩がぴくりと震えた。
「ソフィ……お前のここ、見ても良いか?」
ソフィは少しばかり躊躇うような仕草を見せたが、やがてこくりと頷いて、下に着ていたタイツのようなものを脱ぎ始めた。
やがて現れる、ソフィの白い太股。アスベルはますます顔が火照っていくのを感じながらも、その場所から目を離すことができなかった。
「ここがね……へんなの……」
ソフィの指が、内股へと向かう。アスベルは思わず唾を呑み込んだ。
「いい、か……?」
短く尋ねながらソフィが頷くのを確認して、アスベルはソフィの秘められた場所へと指を侵入させた。やがて花弁の柔らかな感触。縁に沿って指を動かすと、確かにその場所は濡れそぼっていた。もう少し中央へ指を伸ばしかけた時、急にソフィが足を閉じようとした。
「駄目! アスベルっ」
「どうしたんだ、ソフィ?」
「アスベルの指、汚れちゃう……!」
慌てて足を閉じ、アスベルの指を動かないようにするつもりだったようだ。しかし固定されればそれだけ、アスベルの指は逃れられなくなってしまうのに――アスベルは小さく苦笑した後、ソフィに優しく微笑んだ。
「大丈夫だ。俺はソフィのここが、汚いなんて思わない」
「でも……!」
「それとも、もうやめるか?」
意地悪な質問だと我ながら思った。ソフィははっとして動きを止めた後、やがてゆっくりと首を横に振った。その頬は紅色に染まっていた。
「駄目……やめるのは、駄目。でも」
「でも?」
「恥ずかしいの……アスベル」
先程覚えたばかりの言葉で自分の感情を表現するソフィを、アスベルは心底愛おしいと思った。
「それは、俺にもっと……触って欲しいってことか?」
ソフィの腕がアスベルの首を抱き締めた。はあ、はあ、という吐息が、再びアスベルの肩にかかる。
「そう、なんだと思う……わからないの……」
吐き出してしまいそうになるくらいの胸一杯の愛しさに襲われながら、アスベルはもう片方の手でソフィの閉じた足をやんわりと割り、彼女の初々しい蕾を指の腹で撫で始めた。
「あ……あっ……」
艶っぽい吐息が、空間に流れ出す。同時に、ぞくぞくと震えるソフィの身体。
「だめっ……アスベル……もっと、あつくなっちゃう……!」
反射的に閉じそうになるソフィの足を押さえつけながら、アスベルはなおもその場所を執拗に責め続けた。
「いいんだ、ソフィ。もっと熱くなって……いいんだ」
「でも……でも……」
「俺は、ソフィにそうなって欲しい。もっと、ソフィの声、聞かせて欲しい」
溢れ出す泉の中へ指を割り込ませると、一段と高い声が響いた。
「あぁぁっ……アスベルっ……!」
「ソフィ……!」
「あぁぁ……だめぇっ……!」
ソフィの身体が仰け反り、長い細髪が鞭のように動いた。力が抜け倒れそうになったソフィの身体を、アスベルはしっかりと抱き支えた。ソフィはしばらく呼吸を乱していたが、少し落ち着くと、とろんとした目でアスベルを見つめた。
「アスベル……わたし、どう、なっちゃったの……?」
「きっと……すごく、気持ち良くなったんじゃないか?」
ソフィは少し目を伏せて、考えるような仕草をした。
「分からない……どきどきして、あつくて、恥ずかしくて……それが、気持ち良いってことなの?」
「ああ、うん……多分、そうなんだと思う」
彼女の口から詳細に語られて、アスベルは急に気恥ずかしさを覚える。自分が今何をしていたのか、冷静に考え直しそうになってしまって、慌てて踏みとどまった。もう後戻りは出来ない。目を逸らしたりもしない。そう決めたそばから、その約束を破ってしまうところだった。
ふと何気なく、下半身へと視線を落とす。明らかにズボンから、己の一部分が浮き上がっていた。まるで苦しいと言うように、中で暴れ回っているのを感じる。限界を悟り、アスベルはソフィに視線を戻した。怪訝な表情の彼女に、そっと告げる。
「ソフィ。その……俺も、お前みたいになってもいいか?」
「わたしみたいに?」
「俺も、お前みたいに、気持ち良く……なりたいんだ」
気恥ずかしさを目一杯感じつつ、正直な気持ちを告げる。するとソフィはうん、と頷いた。
「いいよ。アスベルにも、気持ち良くなって欲しい」
「ありがとう」
アスベルは照れながら礼を言いつつ、ソフィに向けて微かに笑った。
身に纏うもの全てを脱ぎ捨てると、よりいっそう下半身のその部分だけが浮き出ていた。アスベルはソフィをゆっくりとベッドに押し倒しつつ、荒く息を吐き出しながら、ソフィに確認した。
「ソフィ、いいか? これからどうするか……知ってるか?」
「うん。本で読んだから……」
ソフィは赤面しつつ、少し視線を上げた。
「アスベルの、それ……わたしのここに、挿れるんでしょ?」
「う……うん。いいか?」
頬を赤らめつつ尋ねるアスベルに、ソフィは小さく微笑んだ。
「うん、いいよ。アスベルを、もっと近くで感じたいの」
「ソフィ……」
どうして彼女は、こんなに真っ直ぐに好意を向けてくれるのだろう。愛おしさが溢れて止まらなくなりながら、アスベルはゆっくりと先端を蕾に咥えさせた。あっ、という小さなソフィの声。直後、身体をぐっとソフィの方へ密着させると、襞と襞の間を割って、真ん中まで入り込んだ。
「やぁあっ……!」
細い声が洩れる。締め付ける感触に顔をしかめながら、アスベルはソフィの顔を見下ろした。
「ソフィ……力、抜けるか……」
「ああ……アス、アスベル……」
肩を上下させながら、ソフィは懸命に力を抜こうとしてくれているようだった。しかし彼女の意志に反して、その場所はきつくアスベルを締め上げる。アスベルは指でその場所を弄って力を緩めさせようとしつつ、腰を引いたり入れたりして、なんとか奥へと辿り着こうとした。
襞と襞が舐めるようにして、アスベルの感帯を刺激してゆく。全身を走る快感に耐えつつ、アスベルは顔を歪めた。
「うっ……はぁ、ソ、ソフィ……」
「アスベル……これが、アスベル、なの……?」
「ああ……ソフィの中、温かいな……」
思ったままを口にすると、ソフィもこくりと頷いて言った。
「わたしも、アスベルの……不思議で、温かくて……すき」
「俺も、お前が好きだ……ソフィ」
ソフィの柔らかな細髪の中へ指を滑らせつつ、アスベルはゆっくりと腰を動かした。我慢できない。溜まりに溜まったものが、一気にアスベルの心を揺り動かした。
可愛いソフィ。淫らな姿になったソフィ。俺だけの、ソフィ――
「や、ぁあっ、アスベル、アスベル……!」
「ソフィ……! ……っ!」
「あ……あ、だめ、アスベル……あぁぁっ!」
「俺も……っ――!」
瞬間、何かが爆ぜる音を聞いた。
――直後、温かいものがアスベルの体内から放出される感覚を、じわじわと味わっていた。アスベルは乱れた呼吸を整えつつ、同じように喘ぐソフィを見下ろした。放出しきれなかった愛しさを、彼女の髪を梳くその手に宿らせながら。
ちゃぽん、という水音が浴室に響く。ソフィがタオルを浴槽の中に沈めて、再び浮かび上がらせた。
「アスベルとお風呂に入るの、初めて」
「ははっ。俺はお前を一度も風呂に入れてやらなかったからな」
以前幼馴染みにこっぴどく叱られたことを思い出し、アスベルは苦笑する。
二人は衣服を着た後、風呂に入ることにした。フレデリックに汗をかいたからなどと適当に嘘を吐いて、アスベルが先に浴室に入り、人目を盗むようにしてやってきたソフィを招き入れた。二人で一緒に入っていると知れたら、いくらなんでも止められるだろうと踏んだからだった。
ソフィの柔らかな身体を後ろから抱き寄せながら、アスベルは少女を愛しく思う。こうしてタオルで遊んでいる姿を見ると、容姿相応で微笑ましいと思うけれど、確かにあの時アスベルの腕の中にいた少女は、淫らかな大人の艶気を醸し出していた。不思議な感覚がして、アスベルは小さく笑う。それは少女が成長した証なのか、それとも――
「あとで、アスベルの背中、洗ってあげるね」
「じゃあ、お願いしようかな」
「うん」
アスベルは力を込めて、頷く少女を抱き締めた。きゃ、という小さな声。直後、振り返ったソフィの顔が微笑みに満ちているのを確認して、アスベルは安堵と喜悦の混じった溜息を吐く。
くすぐったい、というように目を閉じて首を振るソフィの頬に、アスベルはそっと口づけた。少しばかり大人になり始めた彼女に、自分の印を刻み込むようにして。